元営業マンが語る「貯蓄型の保険は損する」の理由 「積み立てか掛け捨てか」の議論はもはや不毛

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個人事業主やフリーランスには厚生年金がないため、将来の年金づくりとして、貯蓄型の生命保険に加入している人も多い印象があります。私が生命保険の営業をしていたときにも、「年金なんてどうせ受け取れないから払わない」と言う個人事業主が、毎月、貯蓄型の保険に多額のお金を払っていて「もったいないな」と感じました。

保険は毎月の保険料が払えなくなると、受け取れなくなってしまいます。年金には障害年金や遺族年金といった「もしものときの備え」がありますが、保険には働けなくなった際の保障はないので、もったいないのです。

仕事の状況などが変化すると、保険料を払い続けられなくなるリスクもあるため、慎重に検討する必要があるでしょう。

高額療養費があるから医療保険は不要?

ほかにも、保険の営業担当者から「高額療養費があるので民間の医療保険は不要です」という言葉で勧誘されることもあります。高額療養費の制度とは、同月内にかかった医療費が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えたぶんが、あとで払い戻される制度です。

入院や手術により百数十万円程度の医療費がかかるケースもありますが、高額療養費によって多くても十数万程度に抑えられるため、医療保険は不要だという論理です。加入している医療保険を解約させて、貯蓄型の生命保険に加入してもらうためのアプローチです。

高額療養費という言葉を知らなかった人は、貴重な情報を教えてくれるすごい営業マンだなと感動して、つい契約してしまうかもしれません(実は私がそうでした)。

とはいえ、200万円以上の貯金がない人は、医療保険に加入してもよいと考えています。生命保険文化センターの調査で見てみると、過去5年間に入院を経験した人が自己負担した金額は、平均20.8万円でした。50万円以上かかったという人も1割程度います。

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貯金が200万円以下の場合は、大きな痛手です。さらには、高額療養費は月単位で計算するため、月をまたいで入院するとそれなりの金額になってしまいます。加えて、差額ベッド代や入院時の食事代、シーツ代などは対象外です。

ただし、高額療養費の制度でまかなえる部分はあるので、多額な費用をかける必要はありません。月額3000〜5000円程度の商品を選べば十分です。

加入の際は、将来、保険料が変わるかどうかにも注意してください。病気のリスクが高まる中年以降に保険料が上がるものもありますが、支払い料金が一生変わらない商品のほうがよいでしょう。変化が大きい世の中で長生きする時代だからこそ、自ら知識を得て、確実な方法を実践していくことをおすすめします。

佐藤 敦規 社会保険労務士

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さとう あつのり / Atsunori Sato

中央大学仏文科卒後、印刷会社に勤務。40代まではお金に対する知識はゼロ。株式投資を始めるがリーマンショックで約100万円損してしまう。お金に関する知識の必要性を痛感し、社会保険労務士試験の勉強を始める。合格後は生命保険や年金の正しい知識を持ってもらおうと三井住友海上あいおい生命保険のセールスパーソンに転職。現在は社会保険労務士法人に勤務。法人企業の助成金の申請代行や賃金制度の作成に携わるかたわら、セミナー活動や週刊誌やウェブメディアの記事も執筆。著書に『おじさんは、地味な資格で稼いでく。』(クロスメディア・パブリッシング)『「働き方改革」対応・助成金 実務のポイント』(同友館)など。

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