夜の街で働く女性襲う「個人事業主扱い」横行の罠 コロナ禍でも働き続けないといけない理由とは?

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理由として、2020年7月からの国の「Go To トラベル」などの消費喚起策を追い風にした、外食、観光などの対人サービス型産業の労働需要の復調、休業助成金の要件緩和や休業手当を支払わない企業の従業員が申請できる「休業支援金・給付金」など、非正規が利用しやすい支援の拡充、小中高校や保育園の臨時休園・休校による家事・育児負担急増の影響が、緊急事態宣言解除で解消されつつあったこと、を挙げる。

だが、東京のキャバクラで働いていた畑上奈々子(仮名、39歳)の体験は、働くことを中断させたら生きていけなかった「もう1つの雇用回復」の姿を浮かび上がらせる。

2020年3月31日、畑上が働く東京のキャバクラは、前日の小池百合子都知事の「夜の街」での感染拡大と利用自粛の要請を求める会見を受け、閉店した。具体的な経済補償策は示されず、4月7日に緊急事態宣言が示されるなか、厚労省は、雇用されて働く人は休業助成金でしのいでほしいと呼びかけていた。

畑上の働き方は時給ベースのシフト制。タイムカードもあり、労働時間を管理される雇用者のはずだ。だが、店は助成金を申請してくれなかった。

周囲では、店の大半を占める女性が「個人事業主」扱いされる一方、「黒服」と呼ばれる男性従業員は「雇用者」とされ雇用保険にも入っている例も少なくない。コロナ禍で、こうした男性たちについては休業助成金が申請され休業手当も出ていた。理由を聞くと、「男は家族がいるから」と言う店もあった。

「水商売女性の受給たたき」で尻込み

こうした状況に追い打ちをかけたのが、「小学校休業等対応助成金」(休校時助成金)の接待飲食業や性風俗業界の除外措置だった。この助成金は、同年3月からの政府の一斉休校措置で働けなくなった親に有給休暇を保障した会社に支給されるが、一人親女性も多い同業界の排除に「職業差別」との批判が高まり、除外措置は撤回された。

だが、この除外によって、SNSなどで「水商売女性の受給たたき」が始まり、それ以外の給付金の申請まで尻込みする女性たちが相次いだ、と「キャバクラユニオン」の布施えり子・委員長は言う。 

メディアを通じて「キャバクラは高給女性の華やかな職場」のイメージが流されている。だが、畑上の周囲では月収20万円程度の女性が圧倒的に多い。時給が3000円程度でも毎夜4時間ほどの労働では、週5日働いても月24万円だ。ここから毎月10~15%が「税金」「福利厚生費」の名目で引かれ、毎日「へアメイク代」として1000円、深夜の自宅送りの車の経費として2000円といった形で引かれていく。客を引き寄せるための衣装代やチョコレートなどのプレゼント代も自前だ。

「これで家賃と食費を払ったら貯金なんかできない」

そんななかでコロナによる閉店が到来した。畑上は4月分から収入ゼロになった。もともと少ない貯蓄は底をつき、「ヤバい」と思い始めた。

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