「もう、死んでもええわ」という人間観

6カ月の検討作業を終えて、こう言った

昭和の大経営者である松下幸之助。彼の言葉は時代を超えた普遍性と説得力を持っている。しかし今の20~40代の新世代リーダーにとって、「経営の神様」は遠い存在になっているのではないだろうか。松下幸之助が、23年にわたって側近として仕えた江口克彦氏に口伝したリーダーシップの奥義と、そのストーリーを味わって欲しい。(編集部)

 

松下幸之助は、経営哲学というものを構築しただけではない。松下を論じる多くの学者、研究者、評論家が、松下を経営者のみから、見ているのは、象の一部をなでているようなもので、私からすれば、到底、それでは、「松下幸之助」の全体像を描きだすことはできないと思っている。確かに、経営者であったが、同時に、思想家、哲学者であった。

アメリカでの松下の人物像

実際、1964年、アメリカの『ライフ』誌は、日本特集を組み、そのなかで、“MEET Mr.MATSUSHITA”と題する記事を掲載しているが、松下を「最高の産業人、最高所得者、思想家、雑誌発行者、ベストセラー著者と5つの顔を持つ」と紹介している。この指摘の中で、アメリカ人が、松下を「思想家」として注目しているにもかかわらず、日本人が、とりわけ、学者、研究者、評論家が、「最高の産業人」すなわち、「経営者」としか認識しないのは、不思議というより、研究不十分、理解不十分の結果であろうと思う。

昭和46年6月の終わり頃、松下と京都の私邸、真々庵で、縁側に立って庭を眺めていると、「江口君、来月から、人間観の勉強をしようか」と、フッと言う。「わかりました」ということで、二人だけの勉強会が始まった。原稿は、もう20数年前から推敲に推敲を重ねたものがある。その原稿のコピーを、私が声に出して読み、それを松下も原稿の文字を目で追いながら、という、そして、ところどころで、松下が、「ここはこういうように書きかえてくれ」、「ここは、こういうことを言いたいが、それがうまく記述されていない」、「ここは、君は、どう思うか」というやり取りの作業が、実に、6カ月、休みなく、毎日続けられた。

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