所得税改革は、「配偶者控除」だけではない 「103万円論議」の先にある大切なこと

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低所得者は、この所得控除がなければ課税所得が10万円多くなって所得税が10%の税率で課税されるから1万円の負担となっていたのだが、所得控除が与えられたことで負担が軽減される。つまり、低所得者は1万円の負担減となる。

一方、高所得者も、この所得控除がなければ課税所得が10万円多くなって所得税が30%の税率で課税されるから3万円の負担となっていた。だが、所得控除が与えられたことで3万円の負担減となる。

このように、所得控除だと、直面する税率が高い高所得者ほど、税負担軽減効果が大きくなる。所得格差是正という観点からすれば、それに逆行する効果となっている。

ところが、これが税額控除だとどうなるか。例えば、前述の高所得者にも低所得者にも同じように、1万円の税額控除が与えられたとする。税額控除の仕組みにより、高所得者も低所得者も、直面する税率に関わらず、1万円の負担減となる。

所得格差是正のための、大局観のある改革論議を

このように、国民の所得税負担を軽減するにしても、所得控除という仕組みを多用すると、所得格差是正効果が弱まってしまう。

日本全体で同じ金額の負担軽減効果を発揮させるにしても、所得控除で行っている現行制度を、税額控除で行う仕組みに改めるだけで、低所得者には従来通りの税負担軽減ができるとともに、高所得者により多く及ぶ税負担軽減効果を取り除くことができ、所得格差はより大きく是正されることになる。

所得格差是正は、最高税率を上げて、よりきつい累進課税を行うことで実現すると想像する人も多いかもしれないが、所得の源泉を容易に操作できるグローバル経済の下では、効果的ではない。むしろ、わが国では所得控除を税額控除に改めることこそが、所得格差是正には効果的である。

今般の所得税改革論議の本丸は、配偶者控除をはじめとする、「今ある所得控除の額をいじって、誰が増税になるか」という小さな話ではない。多用されている所得控除をどれだけ税額控除へと改めるよう働きかけ、所得格差是正効果をいかに発揮させることができるかという、大局観のある話である。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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