「大差で負けたチームが謝る」日本野球の不可思議 スポーツマンシップにかかわる難しい問題

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日本は国際大会でも実力差のある相手に対して全力で戦ってきた。そのために極端な大差がつくような場合もあった。女子野球日本代表監督の橘田恵さんの記事でも書いたが、ワンサイドゲームになるのがわかっていても手を抜かずに相手を圧倒する日本は、国際社会では評判が悪い。

(写真:筆者撮影)

「日本人はどんな相手であれ、フルメンバーで、全力で戦うことが、相手に対する礼儀だと思っています。でもそれだけが正解ではない。大差がついた展開では、お互いに最後はいい形で終わらせよう、という合意が必要かもしれません。もちろん実力がわからない相手と対戦する場合、最初は全力で戦うことになりますが、序盤で大差がついて“これはさすがに”となったときに、控え選手を出場させて、試合展開をうまく流していくほうがいいときもある。難しいことかもしれませんが、実はそのことがスポーツそのものを尊重することでもあるんですね。

国際大会では、日本の指導者や選手は、相手は違う文化、考え方でスポーツをしているということをちゃんと把握していないと、恥をかきます。何でもかんでも日本が間違っているというわけではないのですが、『よその国のやり方なんて知らないよ』というのが、一番問題なんだと思います」

「絶対に負けられない」トーナメントの罠

冒頭のアメリカの高校生のアメフトの例でいうと、104対0になってから、勝っているイングルウッド高校がさらに2点を追加するために「2ポイントコンバージョン」を選択したことが大きな問題だった。野球でいえば、10点差がついているのにまだバントをするようなプレーも同様だ。

「CNNの記事を読む限りは、大差がついたことよりも、大差がついているのにさらに得点を取るためにオプションを選択したことを問題にしているようですね。普通はギャンブルプレーになるんですが、この場合はギャンブルじゃない。それは高潔さが足りない、ということですね。指導者はこの高校の過去5年間の最多記録をクリアするために行ったようですが、記録更新のために相手チームは“被害者”になるわけで、自分たちのエゴを尊重したことを問題視したのだと思います」

日本の高校野球で10点差がついてもまだバントで次の1点を取ろうとするのは、せんじ詰めれば「絶対に負けられない」トーナメントが基本になっているからだ。

「教育的な意味合いを求められている学生スポーツで、必勝を求められるトーナメント大会しかないというのは問題でしょう。トーナメントでは10点差がついていても大逆転される可能性はある。失敗は許されないから、大差の試合でもバントをして点を取っていく。勝たない限りは終わってしまうので、勝つということにみんなの目が奪われやすい。つまり『勝ち』だけが基準になってしまう。

だから、トーナメント大会が基本の高校野球で、名将と言われる人は、必ず勝つ人、甲子園に連れていく人です。よき教育者が名将ではなく、多く勝つ人が名将として評価される。そういう仕組みになってしまうんですね」

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