「大差で負けたチームが謝る」日本野球の不可思議 スポーツマンシップにかかわる難しい問題

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「明確な結論が出ない、難しい問題ですね。スポーツでどういう状況が楽しいかというと、どちらも手を抜かず真剣に戦っているのが大前提で、かつ両方が拮抗した力関係にあり、フェアなジャッジができる審判がいることが前提です。選手にしてみれば、そのうえで自分たちがちょっと上回って勝つのが理想的でしょう。その意味で言うと、これだけの力量差のあるチームが対戦するという『環境』ができてしまうことが一番の問題かもしれない。

スポーツの競技会はつねに、戦力が均衡した相手同士が対戦するように設計する必要があります。例えばプロ野球は、入れ替え戦のないクローズドリーグなので、ドラフト制度という、一つ間違えれば『職業選択の自由の侵害』といわれかねない制度を導入している。そこまでしてつねに戦力均衡を担保する必要があるわけです。一方でJリーグやBリーグなどは入れ替え戦があるオープンリーグなので、力が似通ったチームでリーグを作ることで均衡を保とうとしています。もちろん、それでも大差がついてしまうことがあるように、完全にコントロールすることは難しいわけですが。

ところが甲子園は戦力均衡を考えないトーナメント型の大会です。とくに予選ではそういう大差の試合が起こりうるということですね。『シード制』は実力差が大きいチームの対戦をできるだけ回避するという意味合いがありますが、それだけでなく競技を管轄する大人たちは、戦力差があるチームが対戦することになってしまう問題があることを認識しなければなりません」

実力差が大きすぎるとケガのリスクも

実力で大差があるチーム同士の対戦は、試合の興をそぐだけでなく、もっと深刻な問題もはらんでいる。

日本スポーツマンシップ協会代表理事、千葉商科大サービス創造学部准教授の中村聡宏氏(写真:筆者撮影)

「これだけの実力差がある学校同士の対戦が設計されて、かつ真剣に戦わなければいけないとなれば、そのこと自体が危険ですね。アメフトやラグビーなどで大人と子どもが真剣に戦えば、子どもはケガをしかねません。野球だって打球の速さが違えば、ケガのリスクが大きくなる。そういう意味でも試合の設計は重要でしょう」

戦力差のある対戦ができてしまったときのために、コールドゲームなどのルールがあるが、それでも埋められない戦力差をどう考えるかについては、それぞれの国の慣習や文化の違いが出てくる。

「MLBでは大差がついた試合では盗塁してはならないとなっていて、それを破ると『失礼だ』ということでビーンボールを食らうことになる。一方、日本の場合は手を抜くことが失礼だ考える傾向が強い。『スポーツは真剣に楽しむものだ』の『真剣に』の部分だけを重視することが原因かもしれません。対戦相手に対するリスペクトの表し方が違うということなんですね」

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