コロナ禍で露呈「若者ホームレス」知られざる苦境 「家がないと就職活動も難しい」日本の実態

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――実際、それで何とかなっているんですか。

オリンピック関連のアルバイトとか、ワクチンの接種の電話受付とか、期間限定の仕事はあります。そうした短期の仕事で収入を得ながら、ネットカフェなどに泊まっているという方は少なくありません。ただ、それも本当に一時的なものなので、またいつ路上生活になってもおかしくないという状況です。

(ウーバーイーツなど)フードデリバリー関係の仕事をしている人もいますが、競争が激しくなってきているので、なかなか収入的には厳しいという話を聞きます。

短期の不安定な仕事をつないでいくという状況から脱して、安定した仕事を、長期で働けるような仕事を見つけるためにも、まずそのスタートラインとして住まいが必要なんです。

ネットカフェで暮らすより、低家賃の住宅を借りたほうが生活コストは安くすむのに、初期費用のハードルがあるということで、貧困から抜け出せないという状況に追いやられてしまう。

――では、どうやって解決すればいいのでしょう。

公営住宅の拡充や、民間賃貸住宅の初期費用や家賃を補助する仕組みが必要でしょう。東京の場合、都営住宅は単身だと原則60歳以上でないと入居資格がないですし、抽選倍率も非常に高い。

昨年からずっと求めているのが、住宅の現物給付です。東日本大震災以降、賃貸住宅の空き家や空き室を行政が借り上げて、被災者に提供するという仕組みが進んでいます。私たちはコロナの影響で仕事と住まいを失う人が急増する事態を「コロナ災害」と言っているのですが、その仕組みを適用すべきではないか。

ただし、日本の住宅政策の管轄は国土交通省、福祉的な支援は厚生労働省というすみわけになっていて、両方が連動していません。まずは、関係省庁の連携が重要だと思います。

地方で仕事がなく上京した若者が困っている

――日本では地方を中心に空き家が増えています。都心で住む場所がないなら、そういったところに移り住めば?と考える人もいそうです。

今、首都圏で住まいに困っている人の中は、地方で仕事がなく上京してきた人が少なくありません。なかには、地方で住み込みの仕事を見つけて移住する人もいますが、コロナ禍で仕事が減っているとはいえ、東京はまだ求人があるので、離れられない人が多いでしょう。

また、地方に空き家があったとしても、そこを貸してくれるかどうかわかりません。とくに住所がない、住民票がない方に貸すかというと、正直なところ難しいと思います。

――そのほかにも、打つべき施策はありますか。

最後のセーフティーネットである生活保護を、もっと使いやすくすることです。昨年12月から厚生労働省が「生活保護の申請は国民の権利」と情報を発信し始め、SNSでも話題になりました。

国としても貧困が広がっていることに対して、生活保護の利用を呼び掛ける方向に転換し始めたので、申請件数は少しずつ増えている状況ですが、自治体によって温度差があります。

昨年春以降、つくろい東京ファンドや反貧困ネットワークなど、首都圏を中心に40団体以上が集まり「新型コロナ災害緊急アクション」というネットワークを作り、生活に困窮した方々からのSOSをメールで受け付けて、駆け付け型の支援をするという活動を継続しています。

生活にお困りの方がいらっしゃれば、ぜひこうした民間支援団体にご相談いただければと思います。

(構成:大正谷成晴)

(3日目第3回は小学生で「自殺未遂繰り返す母」介護した彼の悲壮

中島 順一郎 東洋経済 記者

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なかしま じゅんいちろう / Junichiro Nakashima

1981年鹿児島県生まれ。2005年、早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業後、東洋経済新報社入社。ガラス・セメント、エレクトロニクス、放送などの業界を担当。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、ニュース編集部などを経て、2020年10月より『東洋経済オンライン』編集部に所属

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