コロナ禍で露呈「若者ホームレス」知られざる苦境 「家がないと就職活動も難しい」日本の実態

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唯一といえる例外は生活保護で、住まいがない状態でも今いる場所で申請する「現在地保護の原則」が適用されます。ですが、自治体側が、窓口で申請を拒む水際作戦をおこなうケースがあるのです。

本来はこれ自体が違法行為で、あってはならないことです。ところが、昨年4月の第1回目の緊急事態宣言時に、東京23区で生活保護の申請件数がかなり増えたにもかかわらず、かなりの人が追い返されました。

生活困窮の相談に対して、きちんと生活保護につなげる自治体もある一方、とにかく追い返す、1人だとダメでも私たちのような支援者が同行すると応じるなど区によって対応にバラツキも見られ、若い人に対しては「親元に戻れば」と諭す職員もいました。

若年層の生活困窮者は、虐待があって親との関係が悪かったり、親自身も貧困で頼ることができなかったりすることも多いのに、そうした事情を考慮せずに追い返そうとするのです。

利用していない困窮者の3割超「家族に知られるのが嫌」

生活保護は世代を問わず忌避感が強く、制度につながれていない人がたくさんいます。生活保護を利用していない生活困窮者に理由を尋ねるアンケートをおこなったところ、3割超が「家族に知られるのが嫌」と答えました。

そこで、今年1月から扶養照会(申請者の親族に援助ができないかを確認すること)の運用見直しを求めるネット署名に取り組みました。その結果、4月からは本人が家族への連絡を拒む場合は、本人の意向を尊重するという運用に変更となりましたが、それでもまだ親族への照会にこだわる自治体もあります。

住まいを失いホームレス状態になると、社会的に孤立するのも特徴です。本人が「恥ずかしい」とスティグマ(負の烙印)を持ってしまい、自ら人間関係を断ってしまう人も多く見てきました。

家族や友人に打ち明けることができず、SOSを発することができないので追い詰められ、ますます孤立は深まるのです。

――そうなると、自力で何とかするしかない?

リーマンショック以降、日本国内にも貧困があると知られるようにはなったんですけれども、それは個人で解決するべき問題だという意識が根強くあって、若者たちはその中で育ってきている。

私たちへのSOSも、路上生活になって所持金が数十円、数百円しかないという状態になってからが来ることが多い。そのときに生活保護などの公的な支援を利用することをお勧めするんですが、おそらく本人としては、とにかく次の仕事が見つかるまでのつなぎとしての生活費や宿泊先があればよいと言われる方が多く、また次が見つかれば自分で何とかするからという人が少なくありません。

なので、なかなか制度につながらないということはあります。日銭を稼ぐために短期の仕事でつないでいく生活を続けてきたので、そこから抜け出す方法がイメージできないという人も多いのではないかと思います。

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