マリノスサポーター「バナナ事件」を考える 第9回 対症療法的な日本、社会に踏み込むドイツ

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前回「教会とスポーツ、ちょっと意外な関係」では、スポーツにある価値観がキリスト教と親和性が高いことにふれたが、スポーツは人種差別への反対、平等性の実現など社会に踏み込む一面がある。さらにCSR(企業の社会的責任)の啓発にサッカーが用いられるようなこともある。スポーツとは、いじめや体罰と180度異なる志向性のものであることが今さらながら浮かび上がる。

レッズサポーター差別的表現問題に続き

「Japanese Only」――こんな横断幕が今年3月にサッカーJリーグの試合会場・埼玉スタジアムの浦和サポーター席へ入るゲートに掲げられた。「日本人以外お断り」とも取れる差別的表現と判断され、Jリーグは「無観客試合」という重いペナルティを科したことは記憶に新しい。8月には横浜F・マリノス-川崎フロンターレ戦で、横浜F・マリノスの男性サポーターがバナナを振って大きな問題になった。

 バナナはサルの好物で、「お前はサル」だと、アフリカ系の選手に向けた人種差別の象徴になっている。こういうことが始まったのは1970年代から。欧州でアフリカ系の選手が活躍するようになったことが背景にあった。近年でも人種差別がたびたび起ることを受けて、欧州サッカー連盟は昨年、人種差別に対する罰則規定をより厳しくしている。ひるがえって、この原稿を執筆している時点でいくつかのニュースサイトを見てみると、この行為に対してマリノス側は素早い対策を講じているようだ。

 ドイツでもサッカーにおける人種差別が全くないわけではないが、それ以上に人種差別や同性愛嫌悪に対する反対キャンペーンがかなり熱心に行われている。ただ、もう少しサッカーからはなれてドイツ社会全体を見ると、日本よりも「移民国家」の様相が強く、外国にルーツを持つ市民との社会的統合は長年の課題になっている。裏を返せば、摩擦や差別が多くあるということでもあるが、同時にドイツに住む筆者の印象でいえば差別に敏感な人も多い。こういった社会状況の中に「サッカー」があるわけだ。

第3回「ドイツの学校には部活がない?」でも触れたように、ドイツでは子供から大人まで地元のスポーツクラブでスポーツを楽しむ。地域で行われる青少年のサッカーの試合を見ても、メンバー全員が狭義のドイツ人というチームを探すのは難しい。容姿からいえばアジア系やアフリカ系の子供たちがいるし、欧州系(いわゆる白人)でもドイツ以外にルーツを持つ子供が普通にいる。もちろん国籍と容姿はまた別だ。

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