野間省伸・講談社副社長(日本電子書籍出版社協会代表理事)--紙の本と電子の本を売る力が必要、権利だけの主張は論外だ
電子書籍時代の幕開けを前に、多くの問題を抱える日本の出版業界。「本」はどう変貌を遂げるのか。いち早くアイパッド向けに新作を投入して注目を集めた講談社、そして出版界が進む道とは。
──アイパッドを皮切りに、今後電子書籍端末の普及が加速するとみられます。出版界への影響は。
一口に出版界といっても、バリューチェーンで考える必要がある。紙の世界の、著者、出版社、印刷会社、取次、書店、読者という役割が、電子化でどう変わるのか。たぶん著者と読者の役割は変わらない。われわれ出版社も含めたその間の関係者は、紙の世界で認められてきた付加価値を出せるかに懸かっている。
今年3月に発足した、出版社33社が参加する日本電子書籍出版社協会(電書協)でも、著者の利益・権利の確保、読者の利便性に資することを出版社の役割と掲げている。まだ正解が見つかったわけではないが、「電子」が「紙」の需要を刺激するような、両者の共存、連動を探っていきたい。
──出版社にとって、紙と電子のいちばん大きな違いは、電子書籍は紙で認められてきた、定価販売を義務づける再販制度(再販売価格維持制度)の対象外となる点です。出版社が有してきた価格決定権はどうなるのでしょうか。
「デジタルコンテンツ」としてひとくくりにされる以上、電子書籍の世界が再販制度の枠外に置かれるのは致し方ない。仮にわれわれが声高に、「紙で認められた権利がなぜ電子ではないんだ」と主張しても、現段階で消費者の支持を得られるとは思えない。
ただ世界を見渡すと、たとえばフランスでは電子書籍にも再販制度をという声が上がっている。イギリスでは1990年代に再販制度がなくなった後、業界が大混乱に陥り、あれは大失敗だったと結論づけられている。