樺美智子 聖少女伝説 江刺昭子著 ~実像に迫り また新たな伝説は続く

樺美智子 聖少女伝説 江刺昭子著 ~実像に迫り また新たな伝説は続く

評者 仲倉重郎 映画監督

 「樺美智子」とは何者か。もはや即答できる人も多くはないかもしれない。

50年前の1960年6月15日、日米安保条約反対を叫んで全学連の学生たちが国会に突入した。その攻防で一人の女子学生が死亡した。それが東大文学部4年生の樺美智子である。

当時、評者は受験浪人だったが、翌日、通っていた予備校に別の予備校の有志がカンパを呼びかけにやってきた。それがきっかけで数校の予備校生が集まり、「全浪連」と書いた即席プラカードを手に国会デモに行った。誰もが樺さんの死にじっとしてはいられなかったのだ。

彼女は警官隊に惨殺されたとして、東大慰霊祭、全学連慰霊祭、安保反対国民会議の国民葬の三つが、立て続けに執り行われた。その過程で「樺美智子」は「可憐な少女」「清潔な女学生」というイメージが定着し「美化され、聖化され」、“アンポハンタイ”のシンボルとなったのである。

だが彼女の実像は違った。小学校高学年で宮本百合子を知り、その生き方に傾倒したという。高校では自治会の役員もした。20歳の誕生日に共産党に入党し、後に共産主義者同盟(ブント)に参加した確信的な活動家であった。文学部学友会の副委員長として「6・15の数ヶ月前から…その発言は相当扇情的になり…神がかってきた」と国史学科の同級生は言っている。

その死後、母親が編纂した美智子の文章や、母親自身が書いた本は、多くの人に影響を与えてきた。美智子の生き方に戒められ勇気をもらった人がいると、著者は記す。そして最後にこういう。「自分が堕ちそうなとき、立ち返るべき原点を彼女は示してくれている」。

だが、その筆致にふと戸惑う。これもまた新しい「聖化」ではないのか。伝説は続く。

えさし・あきこ
1942年生まれ。早稲田大学教育学部卒業。文化出版局で『装苑』『ミセス』などの編集に携わった後、71年よりフリーランスの編集者に。『草饐』で田村俊子賞。81年より日本エディタースクール講師、88年より神奈川県の女性史研究グループ「史の会」代表。

文藝春秋 1850円 320ページ

  

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