「コロナ直撃のアパレル」から見える経営のヒント ワールドとアダストリアの財務分析からわかる

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このようにワールドの上昇率がより高くなっていることには、先に述べたようにワールドの売り上げの減少率が大きかったことも一部影響している。ただそれに加えて、もともとのワールドの販売管理費、中でも固定費的な費用の負担がかなり重たかったことも影響していると考えられる。

ワールドは、2020年8月5日と2021年2月3日に発表した構造改革プランの中で、一部のブランドの終息、店舗数の削減(2020年8月は389店舗削減、2021年2月は452店舗削減を発表)、本部を中心とした人員の削減(2020年8月は309名削減、2021年2月は125名削減を発表)の一部を2020年度にすでに実行に移している。このような販売管理費をかなり圧縮する施策を実行したうえでも、ワールドの販売管理費率の上昇率が高くなっていることが、ワールドのほうが以前から販売管理費、中でも固定費的な費用の負担がかなり重たかったことを意味していると考えられるのである。

コロナの影響をあまり受けていない時期のアダストリア(2020年2月)とワールド(2020年3月)の従業員数や設備関係の状況を見てみよう。まず従業員数については、売り上げ規模がほぼ同じにもかかわらず、アダストリアのアルバイトを含めた従業員数が1万1342人であるのに対して、ワールドの同じベースの従業員数は1万3760人と、約1.21倍となっており、さらに固定費の大きさとも関係が深い正社員比率もアダストリアの45.6%に対してワールドは70.4%とかなり高くなっている。その結果として、ワールドの人件費はアダストリアの約1.14倍となっている。

コロナウイルスの影響を抑える3つのポイント

次に、設備関係については、売り上げ規模がほぼ同じにもかかわらず、アダストリアの店舗数が1392店舗であるのに対して、ワールドは2503店舗と約1.8倍の水準となっており、土地や建設中の設備に対する支出を意味する建設仮勘定を差し引いた減価償却費につながる有形固定資産の金額も、アダストリアの128億4600万円に対して、ワールドは186億5900万円と、1.45倍になっている。このようなヒトや設備に関係する費用は固定費になる傾向が強く、このような固定費が販売管理費に一定水準で含まれていることが、2社の売り上げが減少する中で、販売管理費の負担率を高める要因の1つとなっている。さらに、そのような固定費の比重が高いワールドのほうが、より大きな影響を受けていると考えられるのだ。

このような2社の状況の違いから、大幅な売り上げ減少に陥った場合、製造設備関係費、人件費、店舗関係費などといった、売上原価や販売管理費に含まれる固定費の比重が高いほど、大幅な赤字に転落する可能性が高くなることがわかる。

ワールド、アダストリアの業績状況を比較・分析してきたが、ここまでで見えてきたことは、コロナウイルスの感染拡大のような大きな環境変化で業績が悪化した場合、その悪化の幅を抑えるには、

・EC化率向上で販売チャネルの分散
・海外売上高比率の向上で展開する国・地域の分散
・製造関連、販売関連に含まれる固定費を圧縮

上の3つが有効であるといえそうだ。この3つを念頭に置きながら、次回では「ワールドの構造改革プラン」を考えていきたい。

西山 茂 早稲田大学ビジネススクール教授

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にしやま しげる / Shigeru Nishiyama

早稲田大学政治経済学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA修了。監査法人ト-マツ、西山アソシエイツにて会計監査・企業買収支援・株式公開支援・企業研修などの業務を担当したのち、2002年より早稲田大学、06年より現職。学術博士(早稲田大学)。公認会計士。主な著書に『専門家以外の人のための決算書&ファイナンス入門』(以上、東洋経済新報社)、『ビジネススクールで教えている会計思考77の常識』(日経BP社)、『MBAのアカウンティングがざっと10時間で学べる』(KAOKAWA)などがある。

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