「コロナ直撃のアパレル」から見える経営のヒント ワールドとアダストリアの財務分析からわかる

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売上減少率の次に利益率の違いを見てみよう。中でも、売上高総利益率と営業利益率に着目したい。まず、2社の売上高総利益率の変化を見てみると、もともとは、相対的に高価格帯の商製品が多く、自社で製造する比重が高いワールドが付加価値の高さなどから58.5%(2020年3月期)と高くなっており、アダストリアの55.5%(2020年2月期)を3%上回っていた。

しかし、コロナウイルスの影響を受けた翌事業年度は、ワールドが53.8%(2021年3月期)、アダストリアが54.5%(2021年2月期)といずれも低下し、さらにワールドの落ち込みが激しかったため、アダストリアに逆転されてしまっている。

この総利益率の低下の理由について、2社は決算説明の中で、いずれも在庫圧縮のための値引きの影響をあげている。

固定費増が総利益率の低下に

ただ、それに加えて、ワールドの場合はアダストリアに比較してグループ内で製品を製造する比率が高く、固定費が多くなっていることが影響している可能性がある。つまり、売り上げの大幅な減少の中で、すぐには削減できない製造部門の設備関係費や人件費などの固定費の負担率が上がり、これが総利益率の低下の理由の1つになっていると考えられるのだ。

ワールドの製造部門が含まれるプラットフォーム事業では、設備の稼働率の下落を特需ともいえる医療用ガウンやマスクの製造などで補填したようであるが、それでもアパレル事業の売り上げ減少によって工場の稼働率が下落し、固定費の負担率が上昇したことが、売上高総利益率低下に一定の影響を与えていると考えられる。

次に、2社の売上高営業利益率の変化を見てみると、もともとはワールドが5.5%(2020年3月期)、アダストリアが5.8%(2020年2月期)とほぼ同じ水準となっていた。しかし翌事業年度はワールドが△3.6%(2021年3月期)、アダストリアが1.4%(2021年2月期)と2社とも大きく低下し、中でもワールドは営業赤字となるなど大きく落ち込んでいる。

この違いには、先に説明した売上総利益率の落ち込み幅の違いも影響しているが、それに加えて、もともとの売上高販売管理費比率の水準とその変化の違いも影響していると考えられる。

実際に売上高販売管理費比率を見てみると、もともとはアダストリアが49.7%(2020年2月期)、ワールドが53.0%(2020年3月期)とアダストリアの比率が低い状況であった。しかし、翌事業年度は、アダストリアが53.1%(2021年2月期)、ワールドが57.4%(2021年3月期)といずれも上昇しており、その上昇率はアダストリアの3.4%に対して、ワールドは4.4%と、より高くなっている。

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