首都圏大地震、「海に近い路線」津波対策は万全か 鶴見線の避難どうする、満員状態の訓練も必要

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いたずらに不安感を煽ることはかえって害があるので、気になる駅の津波想定を最初に見ておこう。

神奈川県の津波ハザードマップ(「神奈川県津波浸水予測図」など)によれば、海などに面した鶴見線海芝浦駅と同線新芝浦駅での最大の津波の浸水深(地面から津波による水面までの高さ)想定は、以下のとおりである。

・海芝浦駅…最大0.15~0.5m
・新芝浦駅…最大0.8~1.2m

海芝浦駅の例など、意外とたいしたことがないと感じる人も多いかもしれない。だが鶴見線沿線でもこれより高い津波(深い浸水)となってしまう一帯がある。運河からやや離れた浜川崎―扇町間のほうが浸水深想定は大きいのである。

・浜川崎駅…最大1.2~2m
・扇町駅…最大1.2~2m

鶴見線沿線の工業地帯は、1910年代頃に埋め立てられたエリアが大半だが、どのくらい海面より高く埋め立てたかの違いや地形などで浸水深が変わってくるためである。

また鶴見線より内陸側の京浜東北線鶴見駅付近の例でも浸水深の大きい所があり、一例は以下のとおりとなる。2018年7月19日付記事(横浜周辺「水没リスク」がある路線はここだ)も参照いただきたい。

・鶴見駅…0m(浸水なし)
・鶴見―新子安間(生麦付近)…1.2~2m

さらにいえば、首都圏の駅でも大津波が想定されている所がある。鎌倉駅で最大3~4メートル、鎌倉大仏(高徳院)の最寄り駅である江ノ電の長谷駅では、最大5~10メートルに達する。2018年5月31日付記事(首都圏「大地震で大津波が来る駅」ランキング)を参照いただきたい。

長谷駅と海芝浦駅とでは、海が見えない長谷駅のほうが津波の危険が断然高いわけで、周りの風景の印象に左右されることなく、津波警報が出た際は、駅の掲示や案内で速やかに落ち着いた行動が必要というわけである。なお、上記想定の津波よりさらに高い津波となる可能性もゼロではないことも念頭に置いておきたい。

実際に津波警報が出たら?

とはいうものの海芝浦駅などにも不安要素がある。鶴見線の各駅には、津波発生に備えて、ホームなどにポスター大の「津波避難地図」が掲げられている。

海芝浦駅に掲示された同地図によれば、避難場所は入船小学校となっているのだが、そこまで徒歩33分と書かれている。しかもそこへは、一部区間で線路内を歩くか、関係者以外立入禁止の工場内を通り抜けないと行くことができない。

川崎港への最大津波高の到達予想時間は約80~90分(慶長型地震例)とされ、それより低い津波はもっと早くやってくる可能性もある。それぞれ自己責任での判断となろうが、実際は駅近くの工場の敷地に入れてもらい高い建物に避難するのも選択肢となるだろう。また海芝浦駅で折り返し電車に乗っているなら、JR乗務員の指示に従う。

実際に津波警報が出たときの鶴見線の対応を、JR東日本横浜支社に聞いてみた。

大地震が発生すると、早期地震警報システム等で電車は緊急停止する。乗務員は津波注意区間内に停車しているか(鶴見線は国道駅付近の高架区間を除き、ほぼ全区間が津波注意区間)、津波に関する警報等は発令されているか、地震の詳細など情報の収集を行う。

次ページ「避難が必要」と乗務員が判断したら?
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