自動車業界の業績は回復基調に入ったが、収益の本格改善はこれからが正念場《スタンダード&プアーズの業界展望》

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アナリスト 
薩川千鶴子
小林 修

日本を含めた世界の自動車需要は、政府による購入者向けの補助金制度や減税措置で需要が下支えられたこともあり、徐々に回復しつつある。日本の自動車メーカーは、ここ1~2年の思い切った固定費削減で損益分岐点を引き下げたことで、需要の回復は緩やかでも、ある程度の業績回復につなげることができる収益構造へ体質改善を進めた、とスタンダード&プアーズは考えている。

しかし、足元の需要はリーマン・ショック以前の水準を依然として下回っており、同水準まで需要が本格的に回復するには数年の時間が必要と思われる。世界の自動車メーカーにとって、信用力の回復を妨げかねないリスクはいくつかあり、収益の本格的な回復はこれから正念場を迎える。

世界の主要市場で需要回復

スタンダード&プアーズは、米国市場での2010年の新車販売台数を前年比約12.5%増の1170万台と予想している一方、欧州市場、とりわけドイツ、フランス、イタリアなど西欧では、09年に行われた販売奨励施策による需要の先取りの反動から、販売台数は10%程度減少するとみている。

09年に登録車と軽自動車の合計販売台数が461万台と前年を9.3%下回った日本については、1~5月は前年同期比20%強増加しているが、9月にエコカー買い替え・購入補助制度が終了する予定であることから、年間でこの回復ペースを維持するのは難しいとみている。

また、北米、欧州、日本などの成熟化した主要先進国市場では、生産能力の余剰感も残る。固定費削減に取り組んだことで、自動車メーカー各社のコスト構造は改善したとみられるが、需要の回復度合いによって工場稼働率の戻りが十分とはいえない地域もあり、特に日本国内については総じて戻りが遅いとみている。

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