真似るな危険!13年ぶりの「HERO続編」 知られざる、リバイバルドラマの超巨大リスク

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「リバイバルは新作よりもリスクが高い」という統計的な事実を、筆者もハリウッドで仕事をして初めて知りました。しかし、どの業界でも、成功者であればあるほど、過去の成功体験にとらわれがち。ところが当然ながら、顧客は日々、進化している。生活環境、家族環境、価値観。その進化を読むのは、とても難しいのです。

テレビドラマで言えば「ショムニ」はわかりやすい例で、1990年代であれば許された「OL」を軸とした世界観も、女性の社会進出が喫緊の課題となっている現代の日本には合いません。また、少子化、かつ、若者のテレビ離れが進む現在、学園ドラマで視聴率を獲得するのも厳しい状況です。

10年後に続編を作るのであれば、そこまで計算して制作しなくてはならないはずですが、同じ制作スタッフが制作する場合は、どうしても目は曇ってしまうし、仮に若手が引き継いだとしても、「あの先輩の黄金ドラマを下手に変えると自分の責任になる」と思い、結局、同じフォーマットに。すると“はずす”可能性が高くなります。

2つめは、日本のドラマが3カ月クール、約10話という短い単位で制作されていて、制作現場が疲弊していること。新しいドラマをひたすら3カ月ごとに作らねばなりませんから、時間をかけて企画を開発する時間がありません。

また、予算も限られています。たとえば、アメリカや韓国のテレビ局は海外にドラマの版権を売って収入源としていますが、10話単位と短い日本のドラマは海外では編成しづらいと人気がありません。ちなみに、「おしん」(NHK)が海外でよく売れたのは、話数が多かったことも要因のひとつです。実際、日本のドラマの海外版権はめったに売れません。以上、まとめてみると……

何が当たるかわからないので10話単位で数多く制作
→10話単位なので海外に売れない
→予算は増えない
→現場は疲弊
→新しい発想が生まれてこない
→リバイバル+続編に頼る 
→当たっても続編はすぐに制作できない
→10話単位で数多く制作……

 という負のスパイラルに陥っているのです。

ハリウッドに比べると、今の日本のドラマの制作方式は極めて非効率。せめて20話単位にして、本数を絞って制作し、海外市場に売れるようにすれば、予算も増えるし、制作現場も効率的になると思います。

そして前半の話に戻りますが、やはり続編はなるべく早く放送するのが鉄則。シーズン1から間が空けば空くほど、時代背景が変わって、失敗する確率が増していきますから、「HERO」は例外中の例外と思っていたほうがいいのです。

さて、次々と制作されるリバイバル番組の話は、成熟産業に勤務しているビジネスパーソンの方々にも、異次元の話ではないはずです。上司から「原点に戻れ!」と言われたら、だいたいの場合は末期症状。顧客は日々進化していることを忘れずに。

佐藤 智恵 作家・コンサルタント 

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さとう ちえ / Chie Sato

1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。公式ウェブサイト

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