長時間労働が常態化する深刻な実態

一般的に労働基準法が適用される業種では、基本的な労働時間は1日8時間が上限と定められている。教員も私立はもちろん、公立であっても労働基準法が原則として適用される。だが、公立の教員に対しては、時間外労働などを記した労基法の一部適用除外を認める給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)があり、長時間労働が常態化する温床とされている。

今回、学校にいる平均時間に関して聞いた質問でも、その深刻な実態は読み取れる。学校滞在時間を8時間未満から15時間以上まで1時間刻みで回答を募ったが、「8時間未満」とする回答は7.0%。「8時間以上」とする回答は全体の93.0%を占めた。最も多かった回答は「10時間以上」の23.3%で、次いで「8時間以上」が17.7%、「12時間以上」が16.2%だった。

ただこれは、あくまで学校にいる時間を聞いているにすぎない。「帰宅後や休日に自宅で仕事をすることがありますか?」という質問では、「ない」とした回答が39.2%と最も多かったものの、「1時間以上」が30.7%、「2時間以上」が15.7%、「3時間以上」6.3%、「4時間以上」2.5%、「5時間以上」も5.7%の回答が寄せられた。つまり、比較的早めに帰宅している先生も、帰宅後自宅で仕事をしている可能性が考えられる。

とくに、毎日「15時間以上」学校に滞在していると答えた先生のほとんどが、自宅で作業する時間も「5時間以上」と回答している。おそらく休日の対応ということなのだろうが、平日に長時間労働を強いられたうえに、休日も自宅で仕事をこなさなければならない過酷な状況がうかがえる。

最も負担なのは「新学習指導要領」と「ICT教育」

ではいったい、どのような業務に時間を費やし、また負荷がかかっているのだろうか? 「新しい教育や、学校現場の課題に対応するために力を入れて勉強している分野」を聞いたところ、「当てはまるものはない」以外で、最も多かった回答が「新学習指導要領」で39.5%、次いで「ICT教育」の35.3%だった。

また「上記で最も負担になっていること」の回答としていちばん多い回答も「ICT教育」の16.4%という結果になった。全国の公立小中学校の児童・生徒に1人1台端末を配布し、これまでにない授業形式を実施するのだから、定着するまでの苦労は容易に想像ができる。負担となる理由については「環境が不十分」「環境が脆弱でトラブルが頻繁に起こる。自費でケーブルなどを購入しないと機器が使えない」「校内のWi-Fiが脆弱で全校生徒が一斉に使えない」といった環境面の不備を指摘する意見が見られた。

さらに、「自分自身にスキルがない」「児童に教えるためのスキル習得に時間がかかる」など教員自身がICTスキルを得るためのハードルの高さを訴えている。

なお、2番目に回答が多かったのは「新学習指導要領」の15.3%で、負担の理由としては「取り組むべき内容の多さと複雑さ」「理論はわかるが実践が難しい」といった声が多く、「大幅な改訂に伴い作業負荷が膨大」とする意見も散見された。

本来、GIGAスクール構想の1人1台端末整備は、2023年までに実施をする予定だったが、コロナ禍の影響で急きょ大幅な前倒しを行い基本的には環境整備を20年度中に整えることとなった。教育現場では、今「新学習指導要領」とGIGAスクール構想に伴う「ICT教育」というドラスティックな変革が一気に押し寄せていることになる。

GIGAスクール構想では、ICT教育で自ら考える力を育てることはもちろんだが、校務の効率化を図ることも狙いの1つにある。スタート段階では新たな知識やICT機器の使い方を覚えなければならず、現場に負担が生じているが、校務の効率化、教員の働き方改革という側面から今後はいっそう重要視していく必要があるだろう。

また、教員の過重労働の原因は「新学習指導要領」「ICT教育」だけではない。これまでも指摘されてきたが、もともと教員の業務はあまりにも多い。調査では「授業以外でどのような業務に負荷を感じるか」といった質問も聞いている。

最も多く回答が寄せられたのは、教員の本業ともいえる「授業準備」だが、その次には「会議・打ち合わせ」「事務・報告書作成」が続く。それ以外にも「児童・生徒指導」「成績処理」「学校行事の準備」「学年・学級・学校経営」と並んで「保護者対応」なども同じような回答数となった。現場の業務は企業のように細分化されておらず、教員1人でさまざまな業務をこなしていかなければならない現実が反映された結果だろう。

最もストレスを感じるのは「保護者・PTA・地域」などへの対応

業務負荷が多い分、近年では教員のメンタルケアの問題も指摘されている。事実、文部科学省の調査結果では、19(令和元)年度には、精神疾患で休職した公立学校の教員数は過去最多の5478人に上っている。

今回の調査では「業務に関連したストレスや悩みはありますか?」の質問を行ったが、最も多かったのが「保護者・PTA・地域などへの対応」の38.5%。次いで「長時間勤務」の36.3%、「教員間の人間関係」も33.7%という結果だった。

「こうしたストレスをどのように解消できているか?」という質問もしているが、「解消できていない」という回答が多く、「眠る」「解消するための時間もない」という意見も散見され、気分転換などを図る時間もない状況が浮き彫りになっている。

残念ながら、将来に関しての質問でも「いずれ教員を辞めたい」「他職種への転職を考えている」を合わせた回答が約21%に上っていた。

19年には、公立学校の教員の勤務時間を年単位で調整する「変形労働時間制」を導入する法改正案が可決され、教員の働き方改革に文科省も取り組んでいる。しかし、これも現場の実情とはかけ離れているという指摘も多い。

「変形労働時間制」では、残業した分を夏休み期間などにまとめて休めるようになるのだが、実際には部活などがあり、夏休みといえどもまとまった休みを取りにくいのが現実のようだ。何より、この変形労働時間制の適用条件には残業時間の上限が決められており、「月42時間・年320時間以内」となる。例えば、ひと月の出勤日が23日あり、1日2時間程度も残業すれば、この制度すら利用できなくなる。

それでも、「教師の仕事のやりがい、楽しさまたは辛さ」について聞いた質問では、「生徒の成長がやりがい」と多くの先生方が答えている。

「大変なことはたくさんあるし、悩みも尽きないですが、生徒から教えてもらうことや気づかされることが多い。また頑張ろうと生徒が思わせてくれる」といった思わず胸が熱くなる意見もあった。もちろん、やりがいは感じるものの……と、その後に続く言葉も多い。「保護者との確執」や「長時間労働の辛さ」に「業務過多」などだ。次世代を担う子どもたちに「考える力」を育む教育改革は重要だが、それと同時に教員の労働環境の改善が急務なことは現場の声からも明らかである。

この「教師の仕事のやりがい、楽しさまたは辛さ」を聞いた質問について、ここでは紹介しきれなかった全回答をPDFにまとめた。文科省の「#教師のバトン」プロジェクトでは悲痛な声が目立っていたが、本調査では教師のやりがいに対する前向きな意見、本来の魅力に立ち戻ることのできる意見も本当に多かった。PDFは全部で6Pあり、回答も原文のまま掲載しているため、生の声を感じてもらえるに違いない。PDFのダウンロードはこちらから

調査概要
教員に向けたICT教育に関する調査 調査日:2021年6月3日
小学校教員300名、中学・高校教員300名 平均値48.5歳 対象:全国

 

(注記のない写真はiStock)