東芝問題、新聞が報じない経済産業省の本当の罪 自ら推進した「株主主権主義」の罠にはまった

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ところで、伊藤レポートそのものを、私は経済学的にも誤りであり社会的にも有害な内容だと思っている。そのことは東洋経済オンライン記事「誤ったESGの議論は格差を拡大し成長を損なう」ですでに詳しく書いたので、ご覧いただければ幸いである。ここで整理しておきたいのは、「伊藤レポートをまとめた経済産業省」と、その「伊藤レポートに基づき断罪された経済産業省」、そのどちらが過ちであり改めるべきものなのか、という点である。

報道や評論をみると、そのほとんどは伊藤レポートの具体化版であるコーポレートガバナンス・コードを自明のルールとして受け入れ、それをもって民間企業の株主総会の意思決定に介入した経済産業省の行動を非とするものである。しかし、はたしてそうだろうか。

株主主権主義は人々に豊かさをもたらさない

確かに、民の行動、とりわけ個々の人に公権力が介入するのは最低限であるべきである。筆者もたびたびそのように主張している(「『自由』を危機にさらす『全員PCR検査論』の罠」)。

一方、忘れてほしくないことは、「株式会社」は人権を持って生まれてきた「人」ではないことだ。株式会社に自由な意思決定を認めるのは、そうすることが、経済を発展させ人々の豊かな暮らしと命と自由を守ることにつながりやすい、という理由からである。伊藤レポートの作成者たちも、その点を誤解しているとは思えない。筆者と伊藤レポートの立場の違いは、企業統治における株主の絶対的支配が国民経済に豊かさをもたらすとは筆者は思わない、という一点である。

そうした株主主権主義という経済学的思想、筆者に言わせれば「誤った思想」の産物である伊藤レポートの主張が、証券取引所の規則に「コーポレートガバナンス・コード」として取り込まれてしまった。企業行動に対する強制的な規範として株主主権主義が機能するように仕組んだ、東京証券取引所とそれを後押しした金融庁の浅慮には大いに問題がある。彼らは誰からここまでの権限を与えられたのだろうか。

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