日本の老舗が「カルティエ」になれない根本理由 歴史もストーリーもあるのに生かせていない

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──遠慮や謙遜が過ぎると。

今コロナでどこも苦しいけれど、創業400年なら「100年に一度の危機」を少なくとも4回乗り越えてきたことになる。それだけですごいことです。

足りないと思うなら、買収で歴史を補完する手もある。その見事な例が、万年筆メーカー・モンブランの時計事業。休眠状態だった老舗時計ブランド・ミネルバを買収し、その歴史を自社に取り込むことで後発の不利を払拭した。歴史を引き継ぎ一緒になった姿を強調することで、万年筆メーカーが時計を手がけることへの“正統性”を得ている。「モンブラン1858コレクション」と聞くと、モンブランは1858年から時計を作っていたのかと想像しがちだけど、1858はミネルバの創業年です。

日本の企業は単価を安く設定しすぎ

──自ら伝説を作りに行った例も。

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カルティエの時計で最も有名な「タンク」です。第1次世界大戦で戦功のあった戦車団に敬意を表してデザインし、司令官に贈呈した。「貴方の功績をたたえたい」と後出しで作って、その逸話を伝説に高めている。向こうから転がってくるのを待つばかりが能じゃない。先回りして勝手にあげてしまうのも立派な手でしょ(笑)。

──価格設定に対してもご意見が。

日本の企業は単価を安く設定しすぎです。セイコーウオッチに「プレザージュ」という時計があって、漆の文字盤がまさに漆黒の美しい仕上げで価格は10万円。担当者に聞くと「日本の漆のよさを西洋の人にもわかってほしくて、あえて安い値段にした」と。

けれど、日本が誇る漆をそんなに安売りしていいのか、日本文化への冒涜ではないかとさえ思います。実際、海外の顧客から価格が1桁どころか2桁違うと言われたそう。スイスの時計ブランドで、京都・象彦の最高級の漆を使ったヴァシュロン・コンスタンタンの限定品など1本1700万円。お試し価格なんて言っている場合じゃない。

ネットやSNSの普及で、企業が好きなタイミング・頻度で自ら発信できる時代です。顧客層となるミレニアル世代は、そのブランドの出自、どんな価値を持ち、なぜ支持されているのか、あらゆる情報を確認したがる。今こそ価格競争という泥沼から脱して、高付加価値化を目指してほしいと願っています。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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