日本が台湾へワクチン提供「恩返し」の重要な意味 正式な外交関係なくても世論次第でかかわれる

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台湾にとっても今回のワクチン提供はベストタイミングだった。もともと台湾は新型コロナ対策の優等生とされてきた。徹底的な水際対策や疫学調査によって4月末まで累計感染者数を1200例以下に抑えていたからだ。

ところが、5月に入り、大手航空会社のパイロットの感染やそのパイロットが自主隔離していたホテル、台北市内の風俗喫茶が立ち並ぶ繁華街でのクラスター発生がきっかけとなり、台湾全土に感染が拡大。6月3日時点で累計感染者数が9974人となっていた。

台湾国内での新型コロナ感染は起こりにくいだろうと考えていたため、多くの台湾人はワクチン接種を希望していなかった。台湾政府も今夏に台湾企業による国産ワクチンが供給される見通しだったため、海外製ワクチンの輸入をあまり優先していなかったようで、感染拡大時のワクチン摂取率は1%にも満たなかった。だが、急速に悪化していく事態を目の当たりにして「疫苗荒(ワクチン不足によるパニック)」が問題になるほど、ワクチンへの関心が高まっていた。

中国による妨害や牽制も

感染拡大が顕著になるつれ、台湾政府も海外製ワクチンの確保に向けて積極化。ワクチンメーカーや日米など各国政府にワクチンの供給や融通を水面下で打診した。しかし、ワクチンの確保は難航。台湾政府はその背景に台湾を自国の一部とみなす中国の影響があると主張する。

5月下旬、台湾の蔡英文・総統はファイザーとワクチンを共同開発しているドイツのビオンテックとワクチンの買い付けをめぐり「契約寸前までいったが、中国の介入で遅れた」と非難。中国の上海復星医薬が中華圏におけるビオンテックのワクチンの独占代理店となったことで、台湾がワクチンを入手できないというのだ。

中国側はこれを否定したが、中国外交部の趙立堅・副報道局長は「台湾は中国本土からワクチンを簡単に入手できる」と述べたほか、蔡総統の発言に対しては「われわれはこの『総統』なるものを認めていない。彼女は中国の一地区のリーダーにすぎない」と話した。台湾の陳時中・衛生福利部長はビオンテックとワクチン供給について共同発表を行う予定だったが、ビオンテック側が発表文から「国」という表記を削除するよう求めてきたことを明かしている。

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