百年の紆余曲折が生んだ4.8リットル「超節水」トイレ《戦うNo.1技術》
けたたましいサイレンとともに、金属製の機械から薄茶色の円柱が抜き出された。ベルトコンベヤーに移された粘土の塊に、作業員が手作業で複数の土のパーツを張り付けていく。円柱はしだいに見覚えのある形状へと姿を変え始めた。
福岡県北九州市にあるTOTOの小倉工場。1917年の創業以来、この地で作り続けてきた工業製品--、腰掛け便器の生産ラインだ。
成形・乾燥を経て、釉薬(ゆうやく)を吹き付けられた便器の“素”は、全長115メートルのトンネル窯で丸一日かけてじっくりと焼き上げられる。焼き上がった陶器は検査ラインに移され、機械のほか職人が槌(つち)でたたき、目に見えない傷がないか熟練の耳で聞き分ける。こうした一連の工程を経て、ようやく製品は出荷される。
塗り替えられる常識 洗浄水量は4分の1に
手作業と職人の技能に依存した生産工程は、工業製品としてはあまりにアナログかつローテクに映る。研究開発の点からも、欧米での300年に及ぶ歴史の中で、大半の技術は研究され尽くした。だから、技術革新が起こったとしても、それは10年スパンでの出来事。それがかつてのトイレ業界の常識だった。
ところが、そんな常識が今世紀に入ってガラリと塗り替わった。各社は毎年のように、革新的な性能を備えた新製品を市場に投入している。
中でも目覚ましい進歩を遂げているのが、汚物を洗い流す際に必要となる洗浄水量の削減である。70年代前半までは、どの便器も1回当たり20リットルという大量の水を使って便座を洗浄していたが、今や6リットル以下が当たり前。2000年代に入ってからは、各社がコンマ単位での節水競争を繰り広げ、最新の節水便器では40年前の4分の1以下の水量で事足りるようになった。
この節水競争を世界レベルでリードする企業こそ、国内シェア6割を握るTOTOである。