開発現場で多発する鬱病、社長陣頭指揮が示した意義

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 特に神経を要するのは、休職者への対応だ。親に連絡したら、「息子は会社に行ってます。あなたは誰?」と不審電話に間違えられたり、医者からの「休職」指示を経済的な不安から拒むケースも。休職中や欠勤中の社員に、会社での面談を申し入れて拒絶反応に遭うこともある。そんな場合は「相手の自宅近所の喫茶店などでするのがいいみたい」(小杉室長)という経験則も得た。さらに復職タイミングの判断も難しい。

OSTではこうしたトップ自らが乗り出したメンタルケアの結果、休職者は減少、離職率も大幅に低下した。そしてもう一つ、思わぬ大きな効果があった。入社希望者が急増したことだ。今年は約4000名が希望者登録、会社説明会には約1500名が集まった。天野社長自ら会社概要を説明、さらにこれまでのメンタルケアの取り組みも説明する。「人に優しい会社」というイメージが訴えかけたのか、10~20名程度の採用に対し、競争率にすれば超難関の人気企業となったわけだ。

新人社員向けには、自前のEラーニングの「メンタルシックとは何か」から始まる予防学習に始まり、面談や研修も充実させている。「入社してから半年、そして3年までがメンタルシックになりやすい」(天野社長)だけに、特に手厚いメンタルケアが用意されている。

会社の試算によれば、こうした取り組みで休職者減員に伴うコスト低減、離職率低減効果など、年間約2億円の収益改善につながったという。前出のアドバンテッジリスクマネジメントの坂野弘太郎常務は、「メンタルシックを経営の問題として、トップ自らが積極的に取り組む姿勢が重要だ」と強調する。働く人間の心のありように正面から向き合い、大切にしたことが、企業収益の改善という形でも実ったケースだ。

(木村秀哉 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済2010年5月22日号)

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