リモコン激変!「ボタン争奪戦」が熾烈極める理由 Netflix追う日本勢、テレビメーカーも前のめり

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テレビメーカー側のメリットはほかにもある。メーカー各社は一般的に、消費者に新型テレビへの買い替えを促す際、新機能や新サービスをアピールする。例えば、高画質の「4K」や「HDR」、高音質の「Dolby Atmos(ドルビーアトモス)」などを新型機ならではの機能として推している。

だが、地上波放送にはそうした高画質・高音質に対応した番組がない。つまり、地上波の番組を見るだけでは新機種を買っても「宝の持ち腐れ」なのだ。一方、動画配信各社は4Kやドルビーアトモス対応の作品を続々投入している。端末側の最新技術とそれに対応したコンテンツ。これは販売促進にもってこいの組み合わせといえる。

動画配信側でもこうした実感はあり「高画質・高音質の最新機能に対応していることは(メーカー側から)評価されている強みの一つ。販売促進につながることもあるだろう」(ユーネクストの前田氏)という。

また、動画配信ボタンそのものが、テレビの魅力となるケースもある。ある家電量販店社員は「人気の動画配信サービスのボタンがついていることで購入を検討する消費者もいる」と話す。

サービスの理解促進や日々の改善がカギ

現状、動画配信サービスの中で最も強い立ち位置にいるのは、やはりネットフリックスだ。日本だけでなく、本拠地のアメリカをはじめグローバルで圧倒的な存在感を有するため、「(とくに世界市場でテレビを売っている日本メーカーは)『ネットフリックスボタンの設置は必須』と考えている」(動画配信サービス関係者)という。

ネットフリックス同様、多くのリモコンボタンに採用されているのがサイバーエージェントの運営するアベマ。基本無料、かつリニア型(決まった放送時間に視聴してもらう配信形態)のサービスで、独自に番組編成した20以上のチャンネルを運営している点が特徴だ。

ボタン設置に向けメーカーに積極的な営業やアピールをしているわけではないが、「こういったアベマのサービス特性をしっかり理解してもらえるよう説明することは重視している。そこが進まなければ(ボタンを)設置してもらえない」(アベマのマーケティング全般を統括する、サイバーエージェント執行役員の野村智寿氏)。

もちろん、サービス自体に魅力がなければボタン設置において有利な位置には立てない。そのサービスでしか見られない作品を増やす、各ユーザーに合った作品をリコメンドする技術を磨くなど、日々の改善も重要だ。

小さなリモコンの上で起こっているように見える「ボタン争奪戦」は、動画配信サービス側、テレビメーカー側の思惑が複雑に絡み合いながら、今後も続いていきそうだ。

井上 昌也 東洋経済 記者

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いのうえ まさや / Masaya Inoue

慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大メディア・コミュニケーション研究所修了。2019年東洋経済新報社に入社。現在はテレビ業界や動画配信、エンタメなどを担当。趣味は演劇鑑賞、スポーツ観戦。

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