「社内炭素価格」を取り入れる企業が増えるわけ 脱炭素の動きに対応、課題は投資判断への反映

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日本政府は2012年から原油や(天然)ガス、石炭などの化石燃料の使用量をCO2排出量に換算し、1トンあたり289円を徴収する地球温暖化対策税を導入しているが、それより負担の重い炭素税などはまだ取り入れていない。

環境省と経済産業省がそれぞれ検討委員会を設置してCPの本格的な導入を議論している最中だ。環境省は前向きだが、経産省や産業界からは企業の負担増を懸念する慎重論があり、先行きはまだ見通せない。

社内炭素価格をどこまで反映させるのか

そうした中、菅義偉首相は4月22日の気候変動サミットで、「2030年度にCO2等の温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指す」と表明した。目標達成に向けてCP導入の可能性が一気に高まったことは間違いない。菅首相は1月18日の施政方針演説で脱炭素化への道筋として、「成長につながるCPにも取り組んで参ります」と発言している。

企業にとって悩ましいのは、日本のCPがどのようなレベルになるのかがまだ不透明な今の段階で、ICPでの仮想コストを実際にどこまで投資判断に反映させるのかだ。

2021年4月にICPを導入した化学メーカー・クラレの福島健・経営企画部長は、「国内においてはバーチャル(仮想)での数字をどこまで使うのかは今後、社内で議論が出てくるかもしれない。世界的な流れは明確なのでそれに対応する面も当然あるが、設備投資はそもそも時間が掛かるもの。今から(国内含めてCP導入が増える)将来リスクを見越して取り組む必要がある」と語る。

単純に足元の利益への影響だけを見れば、ICPは利益を目減りさせることも当然ある。また、ICPはあくまでも社内の独自基準だけに、価格の付け方から適用範囲までさまざまなやり方がある。導入する企業は、判断基準や考え方を投資家ら外部に丁寧に伝えて、企業評価にしっかりとつなげていく必要があるだろう。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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