アメリカ企業がESGや文化戦争に目覚めた理由 将来の従業員や顧客の支持を考えれば得策だ

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企業が反対に回った最も大きな要因は従業員からの圧力だと考えられる。投票権法をめぐってはデルタ航空とコカコーラといったジョージア州を代表する大手2社の反対が注目されている。いずれも州都で州最大の人口を誇るアトランタ市に本社を置く。都市部出身の従業員が多数いることからも、従業員はリベラル派が多いとみられている。

そして、これらの企業は将来、優秀な人材を維持し新たに採用するうえでも、リベラルな政策を支持するほうがメリットが大きい。企業が仮にSB202を容認することで、多様性を重視していないという烙印を押されてしまえば、新たな人材を確保するのは難しくなる。

民主党支持者のほうが顧客として魅力的

なお、従業員だけでなく顧客の反応についても企業は考慮したであろう。企業の目には、将来の顧客としては、共和党支持者ではなく民主党支持者のほうが魅力的に映っているのかもしれない。ブルッキングス研究所によると2020年にトランプ氏が勝利した選挙区はアメリカのGDP(国内総生産)の約3割を占めているのに対し、バイデン氏勝利の選挙区は約7割と歴然とした差が見られた。

また、大手PR会社エデルマン社の信頼度調査「2020エデルマン・トラストバロメーター」(2020年8月時点調査)によると、アメリカ国民の76%が「人種問題に対応するブランドは信頼が増す」と回答。「信頼が低下する」と答えた19%を大幅に上回る。特に若い世代ほど同問題に対する意識が高く、「企業の人種問題への対応に基づいて購買行動を変えた」と回答した若者世代は過半数を超えた。

このようにアメリカ企業が民主党支持者の関心が高い人種問題など社会政策への関与を強めている背景には、将来の優秀な従業員の確保、そして有望な顧客の獲得を目的とした冷静な判断があるといえよう。ESG(環境、社会、企業統治)にも注目が集まる中、社会問題に企業が関与する動きは一時的なブームではなく、中長期的なトレンドとなるであろう。

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