ANAはこうして"国際線トップ"に飛躍した 航空業界の2大指標でJALを逆転

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縮小

国際線でJALを逆転するという悲願を果たしたANA。両社の間には、かつて途方もない差があった。

ANAはもともと国内線専業の航空会社で、初めて国際線に進出したのは1986年。1978年に開港した成田空港は当時、滑走路が1本しかなく、世界でも有数の混雑空港だった。

後発のANAは、発着枠や有利な運航ダイヤの獲得がままならず、週2便しか飛ばせない路線もあったという。1994年に開港した関西国際空港では欧州路線の就航などに取り組んだが、実績が伴わず、国際線は赤字が続いた。

一方のJALは1983~84年に国際線輸送量で世界最大を誇っていた。1985年の御巣鷹山事故を契機に勢いは弱まるものの、2000年ごろまで国際線ネットワークの拡大は続き、年間ASKが1000億座席キロに迫ったこともあった。

転機が訪れたのは、ANAがスターアライアンスに加盟した1999年。同社は複数の海外エアラインと協力関係を結ぶことで、国際線のノウハウを取り込んでいった。同時に、赤字の関空発着路線からの撤退、中国路線の積極展開などネットワークの見直しや機材の適正化などを進め、2004年度に国際線がようやく黒字化した。その後、羽田空港の国際化が進んだことも、ANAにとって追い風になった。

“敵失”の影響も見逃せない

もっとも、両社の逆転には、JALの経営破綻に伴う路線の縮小が大きく影響している。JALの“敵失”がなければ、今もANAはJALの後塵を拝していたかもしれない。

今後、ANAは2016年度に国際線収入を5485億円と、3年間で45%も引き上げる計画を組んでいる。懸念は、イベントリスクだ。パンデミック(世界的な伝染病の流行)、9・11やリーマンショックのような事態がひとたび起これば、需要は一気に縮む可能性はある。

また、国交省では、東京都心上空の飛行を解禁することで、羽田と成田の発着枠をさらに拡大する議論が本格化している。RPK逆転の余勢を駆ってANAが引き離しにかかるのか、それともJALが巻き返しを果たすのか。政・官を巻き込んだ両社の“空中戦”は、これまで以上に激しさを増しそうだ。

※ 当初の原稿では、「確かに5月の旅客数で見ると、JALの61万9478人に対し、ANAが57万9616人と、JALがリードしている。ただ、この数字にはマイレージサービスの利用者などが含まれる」としていましたが、事実と異なっておりました。お詫びのうえ、訂正いたします。
武政 秀明
たけまさ ひであき / Hideaki Takemasa

1998年関西大学総合情報学部卒。国産大手自動車系ディーラーのセールスマン、新聞記者を経て、2005年東洋経済新報社に入社。2010年4月から東洋経済オンライン編集部。東洋経済オンライン副編集長を経て、2018年12月から東洋経済オンライン編集長。2020年5月、過去最高となる月間3億0457万PVを記録。2020年10月から2023年3月まで東洋経済オンライン編集部長。趣味はランニング。フルマラソンのベストタイムは2時間49分11秒(2012年勝田全国マラソン)。

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