コロナ死亡患者の4割が「元々寝たきり」の波紋 療養型病院は注意!札幌市のデータが示すこと

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――衝撃的なデータですね。こんなデータは初めてみました。

近藤:私自身もほかではあまり見たことはありません。もちろん、大型クラスターが複数発生している地域という偏りはあるのでしょう。

でも、亡くなった方の属性とか背景にまで踏み込んで調べて分析しないで、感染症対策は打てない。もっといえば、病院・施設で亡くなる人を減らすのを最大の目標にするなら、市中の移動とか飲食とかをこれだけ制限するのは、一定の相関はあるにしても、議論が必要だと思うのです。

――札幌市はどういう対応を取ったのですか。

近藤:コロナを受け入れる病院までコロナが発生して、受け入れができなくなりました。そこで、苦肉の策なのですが、市や医師会と相談して、病院でコロナに感染しても患者はそこで留め置くこと(入院継続)にしました。第3波が来た直後のことです。

本来ならコロナ病院に搬送すべき施設や病院にいた人たちをそのまま留め置いた。入院適応者の36%に当たります。ところがその数は実際に入院した患者の数の6割に当たりますから、留め置いたことで、保健所スタッフらの入院調整にあたる負担を6割軽減したともいえるのです。医療崩壊に至らずにすみました。

札幌のデータを神奈川モデルへの合意に生かせた

――大事なデータと知見ですね。これは広く共有すべき話だと感じます。

阿南:札幌のデータがあったから、神奈川県では各病院関係者にていねいに説明して、「後方搬送調整の神奈川モデル」へ合意を取り付けることができました。

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近藤:札幌市では、これらの経験を踏まえ、市長や医師会長らが連名で2020年12月4日、市内各病院に対し「緊急要請」を出しています。「自院における陽性患者発生時の入院体制の確保」などの3項目です。

非常に微妙なテーマも含んでいますが、第4波が来る前に、医療関係者だけでなく、みんなできちんと議論しておくべきテーマでしょう。私個人は、福島第一原発事故で経験した、「救える命を救えず、尊厳ある死亡すら守れなかった」という悔恨がずっとありますから(対談第1回参照)。

阿南:そうですね。コロナで「やられた」と思っちゃいけない。コロナをいかに、反転攻勢に持って行けるか。地域医療構想とか地域包括ケアとかを考える。さらに日本全体の医療や介護の体制をよりよくするにはどうしたらいいのか。変えていける最大のチャンスだと思っています。

瀧野 隆浩 毎日新聞社会部専門編集委員

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たきの たかひろ / Takahiro Takino

1960年、長崎県佐世保市生まれ。防衛大学校卒業後、毎日新聞社に入社、社会部記者として宮崎勤事件などを担当。「サンデー毎日」編集次長、本紙夕刊編集次長、前橋支局長などを経て現職。著書に『これからの「葬儀」の話をしよう』(毎日新聞出版)、『宮崎勤精神鑑定書』『自衛隊指揮官』(ともに講談社)、『自衛隊のリアル』など多数

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