今の日本人は、本当に教養がないのか? 三井物産・槍田会長×ライフネット生命・出口会長(1)

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出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命会長兼CEO
1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当するとともに、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2013年6月より現職。

出口:よく「巨人の肩に立つ」と言いますよね。自分ひとりの存在は小さいけれど、巨人の肩に立つと高いところから広い世界を見渡せる。誰かが冗談で言っていましたけど、ひとりの人間がニュートンなど先人の業績をまったく参考にせずに、基礎から研究を始めていたら、死ぬまで相対性理論にたどり着きませんよ(笑)。でもアインシュタインが書いた本を読めば時間の節約になる。だからまったく同じ経験をするわけではないにしろ、やっぱり巨人の肩に立ったほうが楽に早く高いところに行ける。そういう意味では、やっぱり古典は簡単に巨人の肩に乗れるので、有効な方法だと思いますね。

槍田:仮想体験みたいなものですね。自分以外の人の体験を、本を通じて身に付けられる。

出口:それから古典を読むと、本を書いた人の優れた思考力をまねることができます。さっきスキーの話をしましたが、スキーでもプロに教えてもらったら、厳しいけれど早く上達しますよね。友人に教えてもらったら、甘いけれど、友人の悪いクセがついてしまう。思考力を学ぶときも同じで、僕はビジネス書よりは古典のほうがいいと思っています。それはアリストテレスやデカルトといった、超一流のプロに思考力を教えてもらうのと同じことですから。

槍田:私はカテゴリーを選ばず乱読するほうで、古典も含めて興味があるものは何でも手を出します。だから天文学の本を読んだりする。なんで137億年前の宇宙誕生の話を読むかというと、やっぱりそれについて思いを巡らせることができるからですよね。さまざまなカテゴリーのものを手当たり次第に読んでいるだけでも、ものを考えるきっかけやヒントが得られます。

出口:僕も宇宙の話は大好きです。人類の昔からの問いは、「人間はどこから来たのだろうか」というものですが、僕たちの体は星のカケラからできているわけで、隕石が地球にぶつかったとき、地球に生命が生まれたという説もありますね。ということは宇宙のことを深く知りたいと思うのは、僕たちがどこから来たのか知りたいからだとも言える。でもそんなことは抜きにしても、無条件に宇宙論は面白いですね。

槍田:宇宙の始まりや終わりもまだわからないというのですから、こんなに楽しいことはありませんよ。世界中の誰もわからないのがまた面白い。宇宙は膨張しているとか、膨張したら今度は収縮するんだとか、このスケールの大きさに比べれば、多少のことはどうってことないと思えてくる。仕事をしていくうえでは、いい活力源です。

教養によって、人間と社会を知る

――教養はどういうふうに経営に役立つのでしょうか。

槍田:経営にはいろいろなスタイルがあると思います。会社は株主のものであるという欧米流の価値観で経営する場合もある。私なんかどちらかというと日本的で、経営者は社員一人ひとりの幸せをしっかり認識して、それを支えていくべきだと思っています。

いろいろなバックグラウンドを持ち、いろいろな価値観を持った社員が働いてくれている。彼らがどんな苦労をして、どんな思いで働いているのかと思いを馳せるためには、やっぱりそれなりに教養というカテゴリーのものを身に付けたほうがいい。そうしないと一本調子になってしまって、自分の価値観や自分のモノサシだけですべてを測ることになりかねません。

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