無事に合格して弁護士登録も済ませ、現在は都内の法律事務所に籍を置いている。顧客にとっては法務も税務も同じ人に相談できるメリットは大きい。
「案件に関して2回同じ説明をしなくて済みますからね。法律の相談にのっていて、税務上も気をつけなければならない点も指摘できます。ただし、両方がなあなあになるリスクは避けたいので、『ちゃんとアドバイスをするには別途の報酬をいただきます』と伝えるようにしたいですね。今のところは、法律と税務はそれぞれ別に頼まれてやっている案件がほとんどです」
公認会計士、税理士、弁護士の資格をすべて生かした提案をしていくのは今後の課題のようだ。ただし、先述したようにロースクールの勉強で「燃え尽きた」木村さんは、勉強と仕事ばかりの生活には戻らないと決めている。
「現状で満足なんです。20代の頃は『もっと上へ行きたい』と思っていて、休日に何もしていないと焦ったりしていました。今は休みがあれば家でボーっとしていたい。スキルアップのための勉強はこれ以上したくありません。たまには数少ない友だちと会うこともありますが、私は基本的にひきこもりなんです。100件の仕事を夜遅くまでかけて必死でこなすのではなく、10件の仕事をしっかり丁寧にやりたいと思うようになりました」
妻が強いと夫は自由になる?
向上心がなくなったのではなく、量が質に変わったのではないか。20代の頃に比べると、仕事に無駄がなくなり、「力のかけどころ」がわかってくることは多くの30代が感じていることだ。そのように指摘すると、木村さんからはつつましい答えが返ってきた。
「私は自信があるわけではありません。高みを目指さなくなっただけ。ただし、何かをあきらめたわけではなく、『私の生活はこれでいいんだ』と思っています。歳、ですね(笑)。これから勉強してスキルアップしても、仕事に生かせるのは早くて3年後、5年後ですよね。40代になってしまいます。そんな意欲は私にはありません。結婚して歳もとって、自分の生き方におけるバランスが見えて来たのだと思います。その中で仕事に関しては1件1件をきちんとやっていきたいです」
ひきこもりなのでおカネもあまり使わないと笑う木村さん。子育てをしながらも働き続けるモチベーションはどこにあるのだろうか。
「顧客に感謝されたらもちろんうれしいけれど、感謝されなくても手を抜くことはありません。仕事には高揚感はありませんが、満足感はあります。自分の中で『この案件はこのポイントは押さえてこうやらなくちゃいけない』という基準があって、案件ごとに必要なことを徹底的に調べ、納得できる仕事のクオリティに達したと思えたら満足します」
高揚感より満足感というあたりに職人肌を感じる。このようなスタンスでいると、出産や育児で仕事量が減っている現状でも対応しやすいようだ。
「仕事の質は下げられないので量を減らせばいい。そうすれば働きながら子どもの面倒も見られます。彼が会社員をして安定収入を得てくれているという安心感も大きいですけどね」
夫のほうからすれば、強力な国家資格を併せ持ってキャリアも積んでいる妻を心強く思っているに違いない。しかも謙虚な人柄なのだから言うことなし。いつか夫が大きなチャレンジをするとき、今度は木村さんが三人家族の生活を支えるに違いない。妻が強いと夫は弱くなるのではなく自由になるのだ。
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