少し改善?IC乗車券「エリアまたぎ」の不自由 ダイヤ改正で境界駅までと定期券は利用可能に

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このあたりの理由から、JR東日本のスイカで首都圏エリアと仙台エリアをまたいだ利用ができない(常磐線ではほぼ接している)ことや、JR西日本のイコカエリアで営業キロ200kmを超える場合は一部の例外を除き利用できないことも、ほぼ説明できる。エリアが広くなりすぎると、データ量や計算が膨大になってしまうのだ。

制度的な課題もある。JRは、複数の会社をまたいで乗っても運賃は通しで計算するようになっている。その際の会社間での精算をどうするかという問題だ。紙のきっぷの場合は、発売駅のある会社の取り分や乗車した会社の取り分などが決まっているが、ICカードの場合、乗車時には利用者がどこに行くのかわからない。このため、複数の会社間でICカードを利用できるようにするためには仕組みを新たに構築する必要がある。

また、JR東日本の首都圏ではICカード運賃は1円単位だが、JR東海エリアやJR西日本エリアでは10円単位である。こういった部分の対応をどうするのか、という課題もあるとのことだ。

このような現状も踏まえ、今回は技術的に現段階で可能なところとして、会社の境界駅で複数のシステムに対応するということになった。熱海・国府津・米原までトイカのエリアを拡大することで、JR東海エリアの利用者でこれらの駅との間を行き来する人には便利になる。

全国に広がったICカードだが…

こういった技術面や制度面での課題から、交通系ICカードはエリアをまたいだ利用の実現が困難なのが現状だ。そんな中、定期券だけでもエリアをまたいだ利用が可能になるのは、現在の技術の範囲内で可能な精いっぱいの対応だといえるだろう。

ただ、今後もこれらの区間では定期券以外だとICカードが使えず、乗車時にあらかじめ全区間のきっぷを購入しなければならない。乗車駅も降車駅もICカードそのものには対応しているものの、エリアをまたいでいるという理由で数駅先に行くのにもICカードが使えないという状況はまだ続きそうだ。

本来、交通系ICカードは都市部などで短距離を利用する際に便利なようにつくられたものである。ICカードの利用可能エリアは全国に広がったが、長距離の乗車やエリアをまたいだ利用にはまだまだ課題が多い。そういった場合も含めた利便性向上には、もう少し技術の進歩を待つ必要がありそうだ。

小林 拓矢 フリーライター

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こばやし たくや / Takuya Kobayashi

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。在学時は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。著書は『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。また ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に執筆参加。

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