菅政権が「コロナ第3波」の対応に遅れたワケ 8割おじさん・西浦教授が政策決定過程に苦言

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ところが、実際には第3波でフェーズを超えても実効性のある対策が打たれず、厚労省の通知は政治によって簡単に反故にされた。政治が責任を持って対策をしていれば、病床がオーバーフローすることはなかった。これは大都市を有する地方自治体の首長だけの責任ではない。政府はボールの投げ合いで時間を費やしたが、こと専門性が高い厚生労働行政については守ってもらわないといけない極めて重要なポイントだった。

病床の不足について真に国を憂う気持ちを持ってともに徹夜を重ねた厚生労働官僚たちが、どんな思いで唇を噛んで悔しさを滲ませたのか、憤りを覚える第3波であったことは、ここに通知の存在とともに明らかにしておきたい。

医療の構造問題にどう対応するか

――平時に戻ったときには、日本の医療提供体制の構造を変えることも必要です。欧米諸国の一部には、すべての診療科に対応する総合診療医(日本ではかかりつけ医や家庭医とも呼ばれる)が病気のときだけでなく、健康診断や健康相談などを通じて継続的に同一の患者と関わり、家庭環境や働き方などを含めた総合的な解決策を探るプライマリーケア制度があります。総合診療医は必要に応じて大病院や介護、薬剤師などと連携しますが、感染症が流行した際にも、この制度は有効ではないでしょうか。

新型コロナウイルスの初期の患者対応では、保健所が連絡窓口となって指定医療機関へ誘導してきた。途中でかかりつけ医も導入されたが、外来診療のプロであるプライマリーケアの体制が最もうまくいくかもしれない。

実は、総合診療医学と感染症学は、外来のプロとして診察で所見を得て鑑別診断を考えていくというプロセスは共通していて、感染症医をしながら総合診療医を標榜する医師の方は日本でも少なくない。とても親和性は高い。

ただ、日本では感染症医や総合診療医はおざなりにされてきた。少なくとも10年ほど前までの日本の医学部教育では、学生が感染症医や総合診療医になろうとすると、「やめておけ」と先輩の先生から言われることが多かった。内視鏡処置や手術もできないようでは手に何の職もつかず、医療点数が限られたサービスしかできないから、公立病院でないと、あなたはお荷物になりますよ、と。

最近では、抗菌薬の適正使用や院内感染対策チームなどのニーズから、個別の努力によって日本でも少しずつ感染症医は増えていたが、まだ圧倒的に足りない状況だ。今後は感染症医や総合診療医の育成も含めて、医療提供体制の見直しを行動計画に含めることも考慮するといいのかもしれない。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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