菅政権が「コロナ第3波」の対応に遅れたワケ 8割おじさん・西浦教授が政策決定過程に苦言

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――一方で、新型コロナに対応した資源配分を柔軟に行えていない医療界にも問題があるとの指摘もあります。

その批判はおっしゃるとおりだ。日本の医療提供体制は、ハード(病床や医療施設)もソフト(人材)も高度に専門診療ごとに細分化されていて柔軟性が乏しいことが問題なのかもしれない。現在のような感染症の流行中にそのシステム自体を変えることは難しいが、大学医学部教育や研修医制度の中で、感染症学や感染管理の基礎(感染予防行動、防護服の着脱方法やゾーニングの考え方など)と人工呼吸器の使用方法について必ず学ぶような工夫をし、いざというときのためにソフト面での充実を図っておく必要はあると思う。

また、従来の新型インフルエンザの対応計画でも、必要となる入院キャパシティは既存のキャパシティを超えないという想定になっていた。しかし、既存のキャパシティを超える具体的な想定と、その際は民間病院が病床を供給するなど対応策もあらかじめマニュアルに入れておかないと、この国の体制では動かないことを今回、痛感した。

構造問題を踏まえた対応策を出したが…

ただ、厚労省の関係者の代弁をさせてもらうとすれば、厚労省はそのような医療提供体制の構造問題を流行当初から強く認識しており、それを踏まえた対応策を昨年6月19日に出していた。例えば、私たちクラスター対策班の専門家グループと協力して都道府県などに出した「今後を見据えた新型コロナウイルス感染症の医療提供体制整備について」という通知だ。

ここでは、第1波のデータを分析して、各地域での流行シナリオやその際に必要となる現実的に可能な病床確保計画を示しつつ、新規感染者がこれくらいに増えた段階でアラートをしっかりと出して対策を打てば、この最大病床数内で持ちこたえられるとの説明を展開した。柔軟性がなく大幅に病床を増やせない日本の状況を事前に考えて、流行対策のためのアラートの設定とセットにしたわけだ。

このような計画が機能するためには、都道府県知事や政府は設定された感染レベルのフェーズになったときにしっかりと対策を打つことが必須だった。

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