日本が「国産ワクチン」開発できていない背景 EUによる輸出規制で日本が困るという意味

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実際に、2021年1月29日、EUは域内で製造する新型コロナワクチンについて「輸出透明性・許可メカニズム」という域外に対する一種の実質的な輸出規制を開始(EUは輸出規制ではないと主張)。EUから日本へのワクチン供給スケジュールに影響が出ているとのことで、今後の日本の接種スケジュールが後ろ倒しになってしまう可能性も否定できない。

日本に対して脅威となりうる感染症はあまたあるが、特に強い脅威認識を持つべきなのは、新型インフルエンザと「Disease X」の2つだ。Disease Xとは、2018年にWHOが、感染症危機への危機管理医薬品の研究開発に関する世界戦略「R&D ブループリント」 の中で初めて使用した用語だ。

「現時点において人類に知られていない病原体であって、将来のある時点において人類に危害を及ぼし、国際的に蔓延する恐れのある感染症」と定義され、「来るべき感染症(Epidemic-in-waiting)」とも呼称される。新型コロナウイルスはこの典型例である。

「Disease X」が発生した時に必要なのは

Disease Xが発生した場合には、それに特化した診断薬・治療薬・ワクチンの開発が必須となる。これら3つを合わせた感染症危機管理における武器を「危機管理医薬品」と呼ぶ。治療薬には、危機を発生させている感染症から回復した者の回復者血清(当該感染症に対する抗体を含有している)も含む。

現時点で未知の病原体が危機を引き起こした後でいざ研究開発を始めていたのでは、完成までに時間がかかってしまう。したがって、どのような病原体による感染症危機が発生しても対応可能な基盤技術の研究開発に対し、継続的に投資する必要がある。

しかし、現時点で世の中に存在していない脅威を対象にする危機管理医薬品には、世界のどこにも市場が存在しない。エボラ出血熱のように現存する病原体であっても、大規模な需要がつねに存在しているわけではなく、そこに市場性がない脅威もある。

そうした医薬品の研究開発に私企業が投資することは合理的ではないため、市場メカニズムに任せていたのでは、危機管理医薬品の研究開発が行われることはない。

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