30代でがんになった母が体験した想定外の事態 子どもへの告知、副作用、職場それぞれの難問

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靖子さんは、「楽観的な長男に医師から直接聞いてもらうことで、『あんたがしっかりしないとダメだよ』と自覚してもらいたかった」とも補足した。夫も長男を同席させることに賛成してくれた。

思春期だった長男は、靖子さんに時おり「うるせぇ、ババァ」と口にするものの、長女から「お母さんが大好きなくせにぃ」とからかわれると、ぷいっと横を向いてその場からいなくなっていたらしい。

「大学生になった長男に改めて聞いてみたら、美人の先生が丁寧に説明してくれたので、楽観はできないけれど、『死』ではなく『復活』のイメージだったそうです。同席させてよかったなと思いました」(靖子さん)

家族が作ってくれた手形アート写真:田神さん提供)

彼女は職場での健康診断に加え、人間ドックも毎年受けていたにもかかわらず、前年まで異常は見つからなかった。がんが見つかった年も、腹部に違和感が多少ある以外、自覚症状はなかったという。

「16年2月頃から、体調の悪化が日増しに明らかになり、いろんな病院で胃カメラや大腸検査を受けました。それでもがんは見つかりませんでした。胃や大腸に比べて、症例が少ない希少がんの怖いところだと思います」

同年夏頃になると、足がはれ上がって歩けなくなり(そのときでさえ、がんとは違う病名を告げられた)、全身が一層むくみ始めた。腫瘍からの出血によるひどい貧血や悪寒、目まいなどにも悩まされた。

日常生活もままならなくなり、親戚に紹介された内視鏡のスペシャリストの診断で、がんが判明。結局、腹部に違和感を覚えてから正確な病名を知る10月まで、約9カ月間もかかった。

夫の隆弘さんは、そのときの気持ちを率直に語った。

「十二指腸がんだと診断されたときは、『やっぱり』と『まさか』の両方の思いがありました。体調がおかしいと気づいてから『正確な病名がわかってほしい』という気持ちと、『でも、病気であってほしくない』という矛盾する気持ちが、ないまぜになっていたせいですね」

抗がん剤の副作用「ケモブレイン」に苦しむ

靖子さんが職場復帰したのは、手術から8カ月後の2017年6月。そこから抗がん剤の服用を止めるまでの約半年間は、「ケモブレイン(化学療法で認知能力が低下する特殊な副作用のこと)」に苦しんだ。

「電話で聞いたことや人の名前、同僚との会話などをすぐ忘れちゃうんです。意識がひゅいっと飛んじゃうような感覚でした。集中力も散漫で、いずれも薬の副作用を知らない人たちから見れば、私がなまけているように見えたはずです」(靖子さん)

そのせいか、一部の職員からは陰口を叩かれたりした。それでも病名や一連の症状について、自ら職場の同僚に説明することはなかった。言い訳がましく思えたためだ。

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