努力が嫌い。努力でうまくいくことはない 為末大 元プロ陸上選手の好き嫌い(上)

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楠木:僕は今でも読書部ですよ。むっちゃハード。体育会系(笑)。普通の人が入ったら泣きが入りますよ。ま、部員はひとりだけですけれど(笑)。
 為末さんには、『走りながら考える』(ダイヤモンド社)という著作があるくらいですからね。僕も考えることは大好きです。走ったり跳んだりというのは、ひたすら嫌いなので、椅子に座って考えるタイプですが(笑)。

為末:考えるというか、もうちょっと詳しく言うと、考えたことを、自分の身体で検証していく行為が好きなのです。陸上競技、特にトラックを走る種目は、走ればすぐに結果が出る。走るときのテクニックやトレーニング方法などを試してみて、タイムを測れば、試したことが正しかったのかどうかがすぐにわかります。自分のカラダを使って実験しているようなものです。

楠木:それは、仮説・実験・検証みたいなプロセスで、研究者の仕事に近いかもしれませんね。

為末大(ためすえ・だい) 元プロ陸上選手。 男子400メートルハードルの日本記録保持者。1978年広島県生まれ。中学、高校時代から陸上選手として活躍。法政大学経済学部卒業。大阪ガスを経て、2003年にプロに転向。世界選手権で2度の銅メダルを獲得。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2012年に現役生活を引退。現在、アスリート・ソサエティ代表理事、R.Project取締役。各種メディアでのコメンテーターや講演などでも活躍し、スポーツと社会、教育に関する活動を幅広く行う。著書に『諦める力』(プレジデント社)、『走りながら考える』(ダイヤモンド社)、『負けを生かす技術』(朝日新聞出版)、『走る哲学』(扶桑社新書)などがある。

為末:そうですね。ただ、自分の身体で検証するといったことは、陸上競技だから可能だともいえます。ラグビーやサッカーなどの球技の団体競技は、チームが勝ったときでも、何がその直接的な勝因となったかがわかりにくいでしょう。陸上はタイムがあるから効果が測定しやすいと思います。特に僕はその傾向が強かった。

楠木:なるほど。面白いですね。そういったトレーニング方法も含め、考える作業というのは、アスリートの場合、普通はコーチがやる仕事ですよね。為末さんは、現役時代はコーチをつけていなかったわけですが、それも自分で考えることが好きだったからでしょうか。

為末:コーチをつけるのをやめようと思ったきっかけがあるのです。中学と高校のある時期まではコーチがいて、人にも恵まれたおかげですが、特に問題を感じませんでした。でも、高校時代にトレーニング方法など、自分のやり方を押しつけてくるタイプのコーチがいて、「あ、これはもう無理だな」と感じる瞬間があったのです。押しつけられることに我慢ができなくなったわけです。それから、人に指示されることが嫌いになって、大学もコーチがつかないことを条件にして選びました。

楠木:僕も、何が嫌いかって、人から指示されるのが嫌いなのです。もっと言うと、チームワークも向いてない。「お願いだからひとりにさせて!」というほうです。よーくわかり合っている少人数のチームならいいのですが、組織的に動くことが下手。若い頃はこれを克服しようと努力してみましたが、結局、無駄でした。

為末:お気持ち、よくわかります(笑)。

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