GAFAが突然やたら訴えられるようになった事情 規制に火をつけた元インサイダーの正体

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「一企業がインターネット全体にわたってユーザーの行動を追跡することに同意する人間なんて、いるはずがない」。彼女は当時、こう思ったという。「明らかに消費者の利益に反することができるのは、独占力を手にしているからにほかならない」。

スリニバサンは2017年に広告業界を去ると、フェイスブックが独占企業であることを論証するため、翌年を調査研究と論文の執筆に費やした。完成した論文は、10を超す法学雑誌のウェブサイトに投稿した。すると驚いたことに、カリフォルニア大学バークレー校ロースクールの法学雑誌『バークレー・ビジネス・ロー・ジャーナル』で論文が掲載されることになった。スリニバサンはこの知らせに涙したと話す。

この論文は、すぐさま規制当局の目にとまる。掲載から1カ月後の2019年3月、議会下院司法委員会で反トラスト小委員会の委員長を務めていた民主党議員デビッド・シシリーヌは、連邦取引委員会(FTC)に書簡を書き送り、反トラスト法違反でフェイスブックを調査するよう求めたが、そこで引用された文献にはスリニバサンの論文が含まれていた。その後、ニューヨーク州の司法長官事務所も、スリニバサンに研究内容のレクチャーを依頼している。

グーグルの「問題点」

スリニバサンは2020年、オンライン広告界のもう1つの巨人、グーグルに狙いを定めた論文を『スタンフォード・テクノロジー・ロー・レビュー』で発表した。そこで明らかにされたのは、1000分の1秒単位でディスプレイ広告が売買されるオンライン・アドエクスチェンジ(広告取引市場)の複雑な世界だ。スリニバサンは、グーグルがこれらの市場のあらゆる側面をほぼ独占し、最大の取引所を運営しながら、買い手側と売り手側の双方の代理を務めていると論じた。

電子的に取引される他の市場、つまり金融市場には、利益相反のほか、高速取引やインサイダー情報によって一部の市場参加者が不当に利益を上げることを防ぐ厳しい規制がかけられている。にもかかわらず、オンライン広告市場はほとんど規制されることもなく、優越的な地位を持つグーグルによって広告の価格がつり上げられているとスリニバサンは主張した。テキサス州が多数の州と共同で訴えた訴訟で「独占税」と呼ばれている概念だ。

グーグルとフェイスブックに関するスリニバサンの論文は、最近の反トラスト法訴訟に対し、競争政策を専門とする伝統的な経済学者によるテック企業およびテック業界に関するどの研究よりも大きな影響を与えた、とユタ大学経済学部の助教授マーシャル・スタインバウムはツイートしている。

「彼女の論文によって、こうしたプラットフォーム企業の実際の行動と、それが競争に及ぼす重大な影響が非常に明解になった」とスタインバウムは言う。「規制当局に役立つ研究であり、業界の実情を熟知する人物だからこそ書くことのできた論文といえる」。 =敬称略=

(執筆:Daisuke Wakabayashi記者)
(C)2021 The New York Times News Services

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