第一生命、営業職員「巨額金銭詐取」の深い闇 被害総額は20億円超に、全契約の調査実施へ

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契約者貸付とは、保険契約の解約返戻金の7~8割を上限に保険会社からお金を借りられる制度のことで、カードローンやキャッシングなどと比べても金利は比較的安い。

19億5000万円を詐取した山口県の不正事案では、「特別調査役」という肩書を得た元社員が契約者貸付などを利用させ、それを原資に架空の金融取り引きを持ちかけて金銭を搾取していた。そして、契約者1人を除き、すべて現金の手渡しの形で金銭を預かっていた。

また、和歌山県の事案では50代の元営業職員が契約者に無断で契約者貸付や解約などの手続きを行い、「誤って手続きをしたため、振り込まれたおカネを回収したい」と説明して、金銭を不正取得していた。

12月22日に新たに発表された福岡県の事案では30代の元営業職員が「金銭的な優遇制度がある」と契約者に持ちかけて、契約者貸付などの手続きに誘導していた。2019年4月からの5カ月間で被害者3人、被害額約865万円だった。

優秀な営業職員に物言えぬ風土

こうした不正の背景について同社が12月に公表した報告書では、金銭授受を一切禁止するルールや不正行為の予兆を把握するための管理・監督が不十分だったことに加えて、特別調査役のように多くの新規契約を獲得する営業職員の特権意識を醸成させてしまったことや、成績が優秀な営業職員に対して社員が強くものを言えなかったことがあるとしている。

稲垣社長は「営業職員や営業現場を大切にするという風土が、逆にお客様にこのような迷惑をかけることになってしまった、表現は良くないかもしれないが、『性悪説』に立ってしっかり管理する必要があると経営陣一同が認識を改めている」と反省する。

第一生命の今回の問題は、営業職員を主力チャネルとする国内の生保各社にとっても対岸の火事ではないだろう。数千人から数万人単位の営業職員を管理する難しさは、ビジネスモデルに違いがない以上、変わりはないからだ。

こうした中、業界団体の生命保険協会は12月、国内の全生保42社に対して、営業職員チャネルのコンプライアンスの実態に関するアンケート調査を始めた。営業職員を抱える生保各社に、管理体制や不正防止の取り組み、予兆把握の方法などを調査する。第一生命の金銭詐取事件のように、高齢の営業職員の定年制度や認知判断能力についても尋ねている。

生命保険協会では「各社の実態を把握後、結果を各社にフィードバックするほか、対外的に公表することも検討したい」と話している。

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高見 和也 東洋経済 記者

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たかみ かずや / Kazuya Takami

大阪府出身。週刊東洋経済編集部を経て現職。2019~20年「週刊東洋経済別冊 生保・損保特集号」編集長。

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