本田の言葉から読み解く、日本の2つの課題 日本代表の強みと弱み

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2人が見いだした着地点

2つ目は試合展開に応じた「ゲームコントロール」だ。

2012年9月のUAE戦後、本田は言った。

「カウンターと遅攻をどう使い分けるか。やみくもにシュートを打ってしまうと、サイドバックがせっかく上がっても意味がなくなる。でも、上がりを待つと速い攻撃をできなくなる。そこを試合中にすごく考えていた。打てるけど待とうかな、というふうに。今後、僕がどういうふうに攻撃を速めたり、ストップするかを考えたい」

縦に速い「カウンター」と、緻密なビルドアップによる「遅攻」の両立は、この4年間、ザッケローニ監督と本田がずっと意見をぶつけ合ってきたテーマだ。

ザックは「いかにうまくボールを奪うか」に力を入れており、同時に奪った後には縦に速く攻めることを求めている。それに対して本田は日本人選手の技術と発想力がW杯で武器になると確信しており、細かいパスによる崩しが必要だと考えている。

2人は意見交換を重ね、昨年10月の東欧遠征、続く11月のベルギー遠征で着地点を見いだした。

アメリカ合宿で、本田は明かした。

「今まで監督と戦術についてさんざん話してきた。衝突という言い方はネガティブに書かれるから違いますが、意見の擦り合わせというものを妥協せずにやってきました」

「たとえばつなぐ部分。監督がもともと自身の国、自身のリーグで指揮を執られていたということもあって、日本の回しながら相手のゴールに迫って行くという感覚は、そこまで最初はなかったと思う。いい意味でギャップがあって当然でしたし、それについてよく話をしました。もっとつなぎたいということは、過去3年くらいにたくさん言ってきました」

縦に速く攻めているだけでは、いつか相手に読まれて行き詰まる。逆にゆっくり攻めているだけでは、ザックの下で取り組んだ約束事が生きない。本田がチームの頭脳として、この2つをゲームの流れに応じて使い分けることが求められる。

「楽しむ」準備はできているか

4年前、本田は南アフリカW杯を振り返ってこう語っていた。

「あまり相手を意識していなかった。どれだけ自分と向き合って、冷静に、したたかに試合に入って行くか。そこには気負いもなかった。むしろ1週間前のほうが気負いがあるくらいでね。実際、どうにでもなれという気持ちが生まれていた。もうあとはやるしかないという場面に来ていたしね。準備の段階のほうがいろんな不安があったり、ナーバスな時間帯というのはあるけど、ぎりぎりの段階、入場するときや、相手と握手する段階では、非常に気持ちが澄んでいる状態だった」

「試合に負けたらどうなるのかとか、負けられないと思えば思うほど、そういう不安も入ってきます。そういうのがすべて消化されて、非常にすっきりした状況で、試合に入って行くことが大事」

「試合の2日前くらいから楽しんでやろうと、メンタルコントロールしていた。あとは何とかなるだろうと思ってやったことが、結果につながったと思います」

冒頭のコメントを見てもわかるように、おそらく本田はすでに「楽しむ」準備ができている。だが、日本が奇跡の躍進を遂げるには、ほかのチームメートも同じく「楽しむ」という境地に達していることが必要だろう。本田は自らのメンタルだけでなく、チームメートの心理をもW杯モードに導いてくれるはずだ。

木崎 伸也 スポーツライター

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きざき しんや / Shinya Kizaki

1975年東京都生まれ。中央大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程修了。2002年夏にオランダに移住し、翌年からドイツを拠点に活動。高原直泰や稲本潤一などの日本人選手を中心に、欧州サッカーを取材した。2009年2月に日本に帰国し、『Number』『週刊東洋経済』『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『フットボールサミット』などに寄稿。おもな著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『クライフ哲学ノススメ 試合の流れを読む14の鉄則』(サッカー小僧新書)など。

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