リンゴの皮むく鉄腕アトム 安川電機“ロボット社長”の夢

リンゴの皮むく鉄腕アトム 安川電機“ロボット社長”の夢

炭鉱・鉄鋼で鍛えた技術開発力が自動車製造用ロボットで開花。長年お荷物だった赤字事業に世界一への道を開かせたのは、ほかでもない「御用聞き営業」。そして今、民生用への技術転用に次代を懸ける。
(週刊東洋経済3月1日号より)

現在多くの工場で使われている「多関節ロボット」。北九州市に本社を置く安川電機は1万5000台強(2006年)を生産、台数ベースで世界シェア24%を握る世界首位メーカーだ。だが、社長の利島(としま)康司がロボット工場長に就任した1995年当時、ロボット事業は、ただひたすら赤字を垂れ流すだけのお荷物事業だった。

赤字部門から世界一へ大ドンデン返し

突然下された異動命令。隆々たる黒字部門のシステム事業部行橋(ゆくはし)工場長だった利島は「オレがダメなヤツと見限られたのか。それともロボット事業の幕引きをやらされるのか」と、本気で思った。「本当に立て直したいなら、自分よりもっとロボットに慣れたヤツがいるじゃないか」。

ロボット工場長に就任、製造現場へ行くとのっけから驚くべき言葉を聞かされる。「ウチはアークに特化しています」。自動車の足回りや床面を線で溶接するアーク溶接ロボットは小型のロボットで、納入先は下請けの部品メーカーばかり。これでは黒字化の道など到底開けない。黒字化するには、完成車メーカーに、ボディを点で溶接するスポット溶接ロボットのほか、プレスした金属板を持ち上げて次の工程に運ぶハンドリングロボットなど、大型のロボットを大量納入するしかない。

だが、スポット溶接やハンドリングのロボットは、先行するファナックやスイスのABBがガッチリ押さえている。たとえば、月産3万台クラスの工場には、約300台のロボットが稼働するが、それらを同時に制御するので、「ためしに1台入れてください」という他製品では定番の営業トークがなかなか通用しない。参入障壁の高い世界だ。

利島は一計を案じた。「どんなのを作ったらいいか、バカにされてもいい、客に聞きに行こう」。現在に至る「御用聞き営業」の始まりだ。「他社の半分の開発期間で作りますから」と啖呵を切ってくるのだ。

この奇策から、いろいろな問題が見えてきた。最大の障害は、それまで放置されてきた「製販不一致」である。当時のロボット営業は子会社の安川商事が担当していたが、利島の目には「営業意欲が弱い」と映った。営業マンにロボットが売れない理由を聞くと、「工場が言うことを聞いてくれない」「うまく作ってくれない」とこぼす。双方に信頼関係がないから、溝は一向に埋まらないい。そこで商事を本体に吸収することを決断、若手社員ばかりを集めて製販一体体制に作り直した。

そうこうするうちに98年、千載一遇のチャンスが訪れる。それまで自動車生産用ロボットの大半を自社生産していたホンダが、グローバル展開加速のために、ロボット生産の外部委託を探り出していたのだ。さっそく利島は自社工場に自動車ラインを組み、ホンダに売り込んだ。

だが悲しいかな、安川には実績がない。品質の確かさを見込んだホンダはコンペ方式を選択。5社が名乗りを上げ、ノーマークだった安川が競り勝った。ロボットの外にむき出しのままが当たり前だったケーブルを内蔵型にするなど、利島の「御用聞き営業」の積み重ねがホンダを射止めた。評判が評判を呼び、今ではトヨタ以外の国内完成車メーカーすべてに大型ロボットを納入する。特にダイハツ工業、富士重工業向けは全量が安川製だ。 

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