コロナワクチンに期待しすぎるのは危ない理由 上昌広「別の対応を取ることも念頭に置くべき」

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医学的に信頼性が低く、かつ重症者に使えなければ、薬の意味はありません。実は、富士フイルムはクウェートでも臨床試験を実施しています。その治験デザインは日本とは全く違います。重症者を対象としており、二重盲検で、目標症例数は780例です。日本でのアビガンの治験は、厚生労働省もグルになった承認ありきの出来レースと考えています。これでは世界から信頼されません。

――ワクチンはどうですか? 直近のニュースでは、アメリカのファイザーとドイツのビオンテックがワクチン候補の臨床第3相試験の中間解析結果として、90%を超える予防効果が確認されたと発表(11月9日)しました。ファイザーはアメリカのRDA(食品医薬品局)に緊急使用許可を申請しました。

:ファイザーの中間解析は大きな一歩です。ただ、あくまで中間解析であること、および、感染者を減らすだけなので、果たして重症者を減らすことになるのか、不明です。コロナ感染の多くは無症状で、重症化するのは高齢者や持病をもった人たちです。1人の医師として75歳の糖尿病患者にワクチンを勧めるかどうかは微妙なところです。ワクチンは、持病のある高齢者ほど免疫がつきにくく、副作用が出やすいからです。もし本当に効いて副作用がなければ、コロナは解決するわけですが。

それから、ファイザー社のmRNAワクチンは、マイナス60度以下での保管が必要です。このような冷蔵庫は普通の医療機関にはありません。日本はファイザーから購入することを決めていますが、国内での接種体制をどう構築するか検討が必要です。

――その他のケースはいかがですか?

:WHOによると、2020年9月9日現在、35種類のワクチンが臨床試験に入っていて、このほか、145種類が前臨床の研究段階にある、とされています。

8月11日、ロシア保健省は、国立ガマレヤ研究所が開発したウイルスベクターワクチン「スプートニクV」を承認したと発表し、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、各地の保健当局に対して、11月にコロナワクチンの接種を開始できるように準備するように指示しています。

ただ、ロシアが作ったワクチンに関しては、イタリアの研究者たちがロシアのワクチンの臨床研究を掲載した英の「ランセット」誌にデータが合わないと反論を送ったところ、ロシアの研究者は回答しない、と表明したということでした。こういうことでは世界の信頼を得ることができません。ロシア以外のワクチン開発についても、第3相試験(治験の第3段階)の結果が出るまでは実際に使い物になるかどうかはわかりません。

途中で開発が中断したケースも

――途中で開発が中断したケースもありました。

:9月にはイギリスのアストラゼネカ社が実施しているコロナワクチンの治験で、横断性脊髄炎と考えられる重大な副作用が生じ、治験が中断しました。このワクチンは、コロナウイルスがヒト細胞に侵入するのを助けるスパイクタンパク質をコードする遺伝子を、風邪の原因となるアデノウイルスに移植したものです。強い炎症反応が生じるため、海外の治験では1日4グラムのアセトアミノフェンを併用することが推奨されていました。私はこの4グラムというのが気になります。この薬剤を日本で処方する際の使用量は通常、成人では1.0~1.5グラムだからです。

4グラムというのは、最大許容量であって、高齢者や小児に処方する量ではありません。これだけの解熱剤を使わなければ、接種に伴う炎症反応をコントロールできないということは、すごい炎症反応が起きるワクチン、とても強いワクチンということなんです。当然副作用や合併症のリスクが高くなってくると言わざるをえない。恐らくワクチンで開発に成功するのはごく一部で、しかも時間がかかることが予想されます。

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