朝日新聞「創業来の大赤字」のとてつもない難題 構造改革を難しくさせている3つの要因

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そこで冒頭の話に戻ります。朝日新聞社が170億円の創業以来の大赤字となり、渡辺雅隆社長が来春で責任をとって退任すると労使交渉の場で伝えたというニュースです。公的な発表ではないのでその詳細は明らかではありませんが、それでも毎年200万部ペースで業界全体の需要が減少している新聞業界ですから、早晩朝日新聞社が日本航空のような大改革を必要とするタイミングがくることは避けられないでしょう。

しかし渡辺社長の代ではそれができなかった。自分が引責辞任する前に労組との会合でこのことを伝えたということは、深読みすれば次の社長は労使関係に踏み込んで改革せざるをえないことを事前通告したとも読み取れます。

では朝日新聞社にはどのような改革の道があるのでしょうか。細部はともかく大きな方向性としては茨の道がありえます。記者をはじめ現場の社員がのめるかどうか難しい問題ではありますが、朝日新聞に生き残る道がないわけではありません。

高い給与水準を見直せばコストは下がるが

ひとつは給与カットによるリストラです。朝日新聞社は上場していませんが、有価証券報告書の提出企業で、上場企業と同じく従業員の給与水準を公開しています。それによれば朝日単体では従業員3966人の45.4歳の平均給与が1229万円(2020年3月31日現在)と、一般企業よりもかなり待遇がいいことがわかります。

細かくは申し上げませんが、これは朝日新聞だけでなく大手新聞社や大手テレビ局の社員の平均的な給与水準です。そもそもメディア業界が潤っていた当時からの業界標準だったのですが、新聞は販売部数の減少に加えて、テレビと同じく広告収入にも長期凋落傾向がはっきりしていて、いつまでもこの高給待遇の構造が維持できないことは自明です。

新聞業界においてはすでに地方紙と毎日、産経のような下位企業でこの従業員給与の見直しが進んでいます。毎日、産経ともに最近はデータを公表していませんが、5年前ぐらいの最後の公表数値では両社とも平均的な40代社員の年収は800万円前後。もともと朝日新聞の3分の2ぐらいの給与水準で、さらに下がっていると推測されます。

子会社の給与水準がわからないので、あくまで単体ベースについて単純計算ですが、朝日新聞において本社の従業員の年収が1200万円から800万円に、つまり平均で400万円下がれば会社のコストがそれだけで150億~160億円ぐらい下がります。

よく「朝日新聞の従業員の給与がトヨタ並みになれば朝日新聞社は圧倒的な黒字企業になる」と揶揄されます。財務的に言えばまさにそのとおりなのですが、それを成し遂げるには大きな痛みが伴うため、一筋縄ではいかない難しさがこの先の同社を苦しめることになるでしょう。それは同じく沈んでいる毎日、産経などのほか、ブロック紙、地方紙、専門紙などを含めた新聞業界全体の大きな課題がいよいよ顕在化していることを示しています。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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