新興国の通貨安に身構える自動車大手 海外生産進み、為替リスクが拡大

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 6月3日、日本の自動車メーカーが新興国の通貨安を警戒している。2012年10月撮影(2014年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 3日 ロイター] - 日本の自動車メーカーが新興国の通貨安を警戒している。前期は対ドルでの円安が業績押し上げ要因となったが、今期は新興国の通貨安が利益を押し下げる見通しだ。完成車や部品の供給が「外国から外国」となるケースがこれまで以上に増えており、為替変動リスクが世界中に拡散している状況が浮き彫りになってきた。

完成車だけでなく部品も「外・外」に

2015年3月期は過去最高益の連続更新を予想しているトヨタ自動車<7203.T>。しかし、為替変動の影響だけを取り出せば、営業利益ベースで950億円の減益要因になる見通しだ。ドル/円

日本の自動車メーカーでは、新興国の売り上げ比率が毎年拡大。米調査会社IHSオートモーティブがまとめたライトビークル(乗用車および車両総重量6トン未満の商用車)の販売予測によると、2004年に25.6%だった日系メーカーの新興国比率は、2014年に46.4%、2024年には56.2%まで高まる見通しだ。海外生産比率の上昇に伴って、新興国へは日本国外から輸出することも多くなっている。

海外拠点から新興国に完成車や部品を輸出する場合は、ドル建てやユーロ建てで行うことが多く、ドルやユーロに対して現地通貨が弱くなれば、採算は悪化する。

例えば、トヨタの欧州統括管理会社・トヨタモーターヨーロッパ(TME)は、傘下の事業会社がロシアやトルコなどに完成車を輸出しており、ユーロに対して、ロシア・ルーブルやトルコ・リラが安くなれば減益要因となる。

4月1日から5月末までユーロに対し、ロシア・ルーブルは約1.5%、トルコ・リラは約3.0%それぞれ下落している。

また、近年の自動車メーカーは国境をまたいでサプライチェーンを構築しており、完成車だけでなく、部品も為替の影響を受けるようになっている。トヨタの場合、「ブラジルではドル建ての部品を外から持ってきて、それを現地で組み立ててている。ブラジル・レアルが弱くなると、仕入れコストが上がることになる」(佐々木卓夫常務役員)。アルゼンチンではドル高/ペソ安、南アフリカではユーロ高/ランド安が同じ仕組みでそれぞれコスト高につながる。

自動車メーカーは、現地のニーズに合った車を現地で生産して販売する「地産地消」を進めている。クレディ・スイス証券の自動車担当アナリスト、秋田昌洋氏は「(新興国における)完全現調化はそこまで進んでいないので、各拠点で自己完結できない。海外生産が膨らんでくれば、円以外の部分でも外国通貨同士のレートに対する感応度は高くなる」と指摘する。

日産自動車<7201.T>のカルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)は、ロシア・ルーブル、ブラジル・レアルといった新興国の通貨安など「為替変動が今期の最大のリスクになる」と警戒する。日産自は前期、円安効果が業績を2476億円押し上げたが、今期は為替が550億円の押し下げ要因になる。

ホンダ<7267.T>も国内外での自動車販売好調で売上高は過去最高となるものの、営業利益は新興国通貨安の影響で微増にとどまる見込み。ブラジル・レアルやタイ・バーツなど新興国通貨安による影響で営業利益を670億円押し下げるという。

米金利上昇は「功罪」

今期の新興国通貨を占う上で最大の注目点が、米国の金融政策だ。年初、アルゼンチンなど個別の問題で外為マーケットが振れることはあったが、あくまでも一時的な動きだった。昨年5月、そして今年1月と新興国通貨が大きく売られた場合に共通するのは、米国の金融政策への見方が揺れたときだ。

米国のテーパリング(量的緩和縮小)は粛々と実施されているが、利上げ観測は大きく後退。足元の世界的な金利低下の大きな要因となっている。しかし、米経済も寒波の影響から順調に回復しており、「今年後半には2015年の米利上げが市場関係者の視界に入ってくる」(外国投信ストラテジスト)との指摘が出ている。

年初に約3%だった10年米国債利回り

資金流出懸念が強まれば「フラジャイルファイブ(トルコ、南アフリカ、インド、インドネシア、ブラジル)」と呼ばれるような、ぜい弱な経済構造を持つ新興国の通貨が売られやすいとの見方もある。

米金利が上昇し、ドル/円も円安方向に動けば、その点では、日本の自動車メーカーにとって増益要因となる。しかし、円安がさほど進まない一方で、想定以上に新興国通貨が下落すれば、トータルでプラスかマイナスかはわからなくなる。グローバル化した企業にとって拡散する為替リスクは悩ましいファクターであり、米金利を見つめる国内輸出企業の視線は複雑だ。

 

(杉山健太郎 編集:伊賀大記)

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