ジャニーズ最後の砦「V6」安定感が半端ない理由 六人六色の多様性と壁を作らない「やさしさ」

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三宅健もドラマ、映画、舞台と俳優としての活動歴がある一方で、「伊東家の食卓」(日本テレビ系、1997年放送開始)に始まり、「アウト×デラックス」(フジテレビ系)への出演など、コメント力やコミュ力の高さを生かしたバラエティーでの存在感が光る。

また障害のあるファンとの交流がきっかけで始めたという手話を生かし、NHKのオリンピック・パラリンピック関連番組でメインパーソナリティーを務めたことは特筆に値する。

もちろんジャニーズの中には、多彩な個性のそろったグループがほかにもたくさんいる。むしろ、そうした個性重視がいまのジャニーズグループ全般の傾向でもあるだろう。だがV6の場合、それぞれの活躍が多様かつ濃密と言える。それが25年という時間の重みでもあるだろうし、V6というグループが見せるオールマイティーな部分にもつながっている。

V6の人間力と「やさしい世界」

こんな“六人六色”ともいうべきV6の姿を見るとき、ジャニー喜多川がかつて蜷川幸雄のラジオ番組で語っていた話を思い出す(「蜷川幸雄のクロスオーバートーク」NHK、2015年1月1日放送)。

先ほども触れたように、森田剛は蜷川幸雄の演出した舞台への出演経験がある。あるとき蜷川は、彼曰(いわ)く「汚い髭」を生やしている森田剛を見て「よくジャニーズにいられるね」と冗談交じりに言ったそうだ。

するとそのエピソードを聞いたジャニー喜多川は、「人間はそれぞれみんないいところがある」としたうえで、「アイドルづくりは人間づくり」なのだと語っていた。

V6には、そんなジャニーズの育成哲学の結晶のようなところがある。先ほどの坂本昌行の言葉にもあったように、ただ仲良くするだけでなく、互いの個性や人格を認め合うことからV6はスタートした。そして年月をかけて互いの関係性が熟していく中で、どんな相手にも壁を作らないグループに成長した。そうした人間力の高さが、V6からはひしひしと伝わってくる。

それは、「学校へ行こう!」(TBSテレビ系、1997年放送開始)、そしてそれを継承した「V6の愛なんだ」(2017年放送開始)を見ていてもわかる。中学生や高校生に接するときも目線はつねに対等で、時には見守り、時にはともに汗や涙を流す。そのバランス感覚が絶妙だ。「V6の愛なんだ2020」でも、その姿は健在だった。

同じことは、アーティスト・V6にも言える。初期のユーロビート路線からアニメ主題歌、バラード曲まで多彩な楽曲を歌いこなす彼らだが、2014年に「NHK紅白歌合戦」に初出場した際に歌ったのが「WAになっておどろう」(1997年発売)だったように、世代や性別の壁に関係なくともに歌いたくなるようなヒット曲を持つのも大きな特長だ。

いわばかけがえのない「やさしい世界」、それがV6の紡ぎ出す世界だ。それは、コロナ禍に見舞われ不安に満ちたこの時代においてとりわけ貴重な、1つの奇跡のようにさえ思えてくる。

太田 省一 社会学者、文筆家

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おおた しょういち / Shoichi Ota

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。現在は社会学およびメディア論の視点からテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、音楽番組、ドラマなどについて執筆活動を続ける。

著書に『刑事ドラマ名作講義』(星海社新書)、『「笑っていいとも!」とその時代』(集英社新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『水谷豊論』『平成テレビジョン・スタディーズ』(いずれも青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)など。

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