「下北沢」新施設は日本の不動産概念を変えるか 開発地域しか価格が上がらないというジレンマ

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廃止された鉄道の高架部分を利用し、チェルシーからハドソンヤードまでの約2.32キロの空中緑道公園として2014年に全体が開業したハイラインは数百種類の植物が楽しめ、非日常の風景のある、歩くだけで楽しい空間。今では年間数百万人が訪れる人気観光スポットとなっている。

ニューヨークのハイライン近辺の不動産価格は大きく上がった(写真:olli0815/iStock)

そしてハイラインの誕生で、それまで交通の利便性に欠けると不人気で安価だったマンハッタン中西部の不動産価格は一気に上がった。とくにハイライン沿いには周辺に比べて最低でも2割、場合によっては倍近い価格の物件もあるとか。

2019年に商業施設が完成した、1930年代のロックフェラーセンター建設以来と言われる大規模な都市再開発プロジェクト「ハドソンヤード」もハイライン直結が売りの1つ。さすがに近年はいささか上がりすぎた感はあるものの、それだけでは利益を生まない公園が周辺地域全体の価値を大きくアップさせたのである。

2008年から建設が始まり、2010年に開業したイーストリバー沿い、かつてのワールド・トレード・センターの対岸にあたる産業用地跡の「ブルックリン・ブリッジ・パーク」も倉庫を中心とした工業街を変えた例だ。

韓国でも周辺地域を底上げした開発が

アメリカ以外では韓国の清渓川という例もある。高速道路を撤去して川をよみがえらせ、川沿いを遊歩道にしたことで観光名所が1つ生まれ、低利用地が多かった下流での再開発が進んだ。水や緑など人を幸せな気分にする空間には、建てられるだけのものをみっちり建てた開発よりも周辺地域を変える力があるのかもしれない。ことに密を避け、開放的な空間に身を置きたいというニーズのあるタイミングでは選ばれるはずである。

韓国・ソウルの清渓川(写真:筆者撮影)

日本でも最近、豊島区の南池袋公園や、大阪府高槻市の安満遺跡公園のように、これまでとは違う、カフェなどがあり、見るだけでなく使える公園が各所に生まれつつあるが、今のところ、周辺地域の人気上昇は感じられても、不動産価値の明確な上昇までは見られていない。

だとしたら、その前にボーナストラックやグリーンスプリングスのような余白の多い空間のある民間の開発が実績を作り、地域全体の価値を上げる開発の先駆になってくれはしないか。期待している。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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