予防接種した人もウイルス感染する例がある訳 ワクチンさえ打てば万全と考えるのは間違いだ

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また抗ウイルス薬は1つひとつのウイルスの特性に合わせてつくるため、新種のウイルスに効く薬の開発には一定の期間が必要です。そして開発後も、何段階もの治験を行って慎重に有効性や副作用の確認を行います。

このような通常の手順を踏むと、実用化までに早くて1年前後もの時間がかかるため、新型コロナウイルスのように全世界で急を要する感染症の場合、既存の薬でウイルスを倒せないか、重症化を防げないかが模索されるのです。

私の研究室でも薬の模索を行い、新型コロナウイルスの増殖と重症化の抑制に効果が期待される成分を発見しました。さらに、それを含み安全性も確認された薬の特定もできています。その薬を中等度~重症の患者さんの同意のもと投与したところ、前者は数日で症状が軽快し、後者は人工呼吸器が外れるところまで回復した例が散見されました。まだ症例数が少ないため検証は継続しますが、基礎研究、臨床研究ともに順調に次のステップへと進んでいます。

ウイルスと細菌は何が違うのか?

それから、これはよくある勘違いなのですが、ウイルスに抗生物質は効きません。抗生物質は「細菌」を倒す薬です。細菌の持つ細胞自体に作用するものなので、ウイルスの遺伝子にはたらきかけて増殖を抑える抗ウイルス薬とは作用のメカニズムが異なります。

細胞を持たないウイルスに、抗生物質は100%無意味。むしろ体に有益な細菌まで死滅させ、免疫機能が低下するリスクがあるくらいです。

ただ、抗生物質がウイルスにも効くと勘違いされがちな責任は医師にもあります。日本ではいまだに、まったく効かないにもかかわらず一般的な風邪にも抗生物質を処方する医師が少なくないからです。国内の外来診療で処方された抗生物質の約6割が、本来は不要だったとする調査もあります。

次ページ抗生物質が効かなくなる「薬剤耐性菌」発生のリスクも
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