菅首相が「よさげな改革」に固執するのは危険だ 下手をすれば国民からの支持を失いかねない

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懸念すべきは、些細な事案で今後国会論戦が停滞する弊害だろう。国民そして金融市場により重要な政策は、新型コロナ対策の徹底と経済活動の復調を両立させることだ。ぜひともこれが国会の主たる論戦テーマになってほしいものである。

菅政権は、新型コロナ感染抑制対応を行いつつ、Go Toトラベルの推進などで、痛手を受けた関連産業の活動をサポートしつつ、経済復調を目指す対応を続けている。

結局、9月の4連休後も一部で懸念された感染者拡大は回避された模様で、引き続き新型コロナによる死亡者も減少傾向にあり、医療体制の崩壊にも至っていない。現場での新型コロナ治療症例が積み重なったことで、病院においては症状別に異なる薬を投与するなど適切な対処方法が整いつつあるとみられる。

もちろん、冬が近づき感染が広がるリスクがあるため油断は禁物だ。ただ、未だに多くの犠牲者が出ている他国と比べて、新型コロナ抑制と経済活動の回復を両立させる日本の政策対応は上手くいっていると評価できる。

菅政権が「国民から支持を失うケース」とは?

菅政権は、新型コロナ対応を成功させ、2021年にオリンピックを開催して「自らの政策が成功した」とアピールしたいだろう。これを実現しつつ、すでに取り掛かっている、規制改革、官僚組織の縦割り打破、行政手続きの簡素化とデジタル化、携帯電話料金引き下げ、などの政策を同時並行で実現させていくとみられる。

だが菅政権のこの戦略を成功させるためには、経済回復を後押しするマクロ安定化政策強化が有効になってくると筆者は考えている。支援金給付など政策執行が遅れた問題があったが、日銀による資金供給拡大政策の後押しもあり、新型コロナによる経済活動制限でリーマンショック以上の経済ショックが起きたにもかかわらず、これまでのところ失業者や企業倒産の大幅な増加は回避されている。

ただ、7~9月期の経済回復ペースは、V字での回復軌道をたどったアメリカよりも緩慢に止まったもようだ。2021年にかけては経済活動の回復を後押しして、大きく膨らんだ需給ギャップを早急に縮小させるマクロ安定化政策が必要になるだろう。

現状、これまでの補正予算の予備費が7~8兆円規模で残っており、一方で実際に家計や企業への支援金などとして新型コロナ対応として追加で支出された財政支援は、約20兆円と筆者は試算している。未使用の予備費を所得支援、支出刺激政策として支出、さらに追加補正予算策定あるいは2021年予算の拡大などにより、拡張的な財政政策を当面続けることが肝要だ。

こうした政策対応によって経済成長と2%インフレの道筋を再び強め、失業率上昇を早い段階で止めることができる。これが、菅政権の政権基盤を強め、改革実現を進める効果的な戦略になるだろう。そして外国人投資家が日本株投資により積極的になるとすれば、GDP成長率に直結する経済政策が発動された時ではないか。筆者は、菅政権が聞こえがいい改革のみに注力してマクロ安定化政策を怠ることで、国民からの支持を失うリスクシナリオを引き続き警戒している。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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