菅首相、「学術会議」任命拒否に込めた権謀術数 理由はあいまいな説明に終始、かみ合わぬ議論

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これに対し、自民党の下村博文政調会長は7日、「学術会議は2007年以来、政府へのきちんとした答申や提言を出していない」と指摘。組織、運営を抜本的に見直すため、党内で検討機関を立ち上げて批判に対抗する構えだ。

しかし、与党内には「藪をつついて蛇を出した」(閣僚経験者)などの不安も広がり、公明も「丁寧な説明が必要で、それができなければ政権の大きな失点となる」(幹部)と強い懸念を示す。

”官邸官僚”が人事に横やり

任命拒否された6人はいずれも社会科学分野の著名な学者で、しかも、安倍前政権が強引な手法で成立させた新安保法制や特定秘密保護法・共謀罪法に国会での参考人として反対を表明したり、沖縄のアメリカ軍普天間基地の辺野古移設に反対していた。それだけに、いくら「無関係」と力説しても「国民は報復措置だと受け取ることは間違いない」(自民幹部)。

そうした中、学術会議元会長らの指摘で、安倍前政権下の2016年から同会議の会員人選に横やりが入り、欠員補充の候補を政府が受け入れなかったことで欠員が生じた事実も明らかになった。その際、学術会議会長にクレームをつけた政府高官は、菅政権でも内閣の中枢で活動する“官邸官僚”で、「安保法制など政府の対応に反対した人物は会員になじまない」などと指摘したとされている。

9日夕に内閣記者会の2回目のインタビューに応じた菅首相は、改めて任命拒否の理由について、「広い視野に立ってバランスの取れた行動を行い、国の予算を投じる機関として国民に理解される存在であるべきことを念頭に判断した」と述べ、6人の学者の言動が理由となったことを事実上認めた。

加藤勝信官房長官は「政府として判断させていただいており、判断を変えるということはない」と明言するが、任命拒否の理由は「人事の経過は明らかにできない」と繰り返すだけだ。これは「いわゆる『モリカケ』や『桜』などで説明責任から逃げまくった」(自民長老)とされる安倍前政権と同じで、「国民のために働く内閣」を掲げる菅政権の前途に暗い影を投げかける。

今回の問題を政治的に見ると、「出だし順調な菅政権が、なぜ大した影響もない学術会議の会員任命拒否を強行する必要があったのか」(閣僚経験者)という疑問に突き当たる。問題発覚当初は「菅首相は悪しき前例と思い込み、よく考えずに踏み切った」(自民幹部)との見方もあった。しかし、菅首相がすぐさま内閣記者会のインタビューに応じたことなどから「まさに確信犯」(政府筋)との見方が広がった。

もちろん、菅首相周辺にも「余計な波風を立てただけで、メリットなどまったくない」との声もある。さらに、「菅首相が『問題ない』『指摘は当たらない』などと、官房長官時代からの常套句で説明拒否を続ければ、苦労人で庶民の気持ちがわかるなどとされた好印象が消え、支持率低落につながる」(自民幹部)との声も少なくない。

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