コロナ禍カレー作りにハマった人の「その後」 カレー作りからさまざまな世界が広がった

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「時間がたくさんできたので、いろいろなレシピを試してみようと、毎日のようにカレーを作り始めたんです。でも、作っても作っても、それを食べるのは自分だけ。誰のためでもない、愛情を感じないカレーを自分で食べ続けることが、すごく嫌になってしまって……。以前のように人と直接会って話したり、食事したりというのができないことも、とてもストレスでした。

そこでインスタグラムのストーリーズで知人あてに『だれかカレー食べてくれ!涙 自分のカレーを毎日食べるのつらい。物々交換、料理交換でもしましょう!』と投稿したんです」(前田氏)

すると多くの知人から反響があり、自宅でカレーのテイクアウトを開始。近所の人にはバイクでデリバリーも行い、提供数は1日10食近くに上った。

「濃厚接触にならないようサッと手渡すのですが、それでも生身の人間に会い、表情を見てコミュニケーションをとることで、すごく救われた気がします。相手も同じ気持ちなんだなというのが表情から伝わることもあり、とくに自分と同じように苦しんでいるミュージシャン仲間が見せたうれし泣きのような表情は、一生忘れられないでしょう。本当にカレーがなかったら、自分はうつになっていたかもしれません」

大型冷蔵庫導入へクラウドファンディング

その後、前田氏は、より本格的にカレー提供を行うべく、大型冷蔵庫の導入を考えた。

インド亜大陸のさまざまな料理手法を取り入れた前田さんのカレーと、ケニックカレーのあいがけプレート(写真:筆者撮影)

その購入資金をクラウドファンディングで募集したところ、目標金額の2倍以上の支援金が集まり、晴れて冷蔵庫や、ほかの備品をそろえた。現在は東京・渋谷の「ケニックカレー」で週1回カレーを提供しながら、音楽活動を存分に行える日々に備えている。

「自分にとっては音楽もカレーも、大切な自己表現の1つです。その自己表現を受け取ってくれる人がいることがとてもうれしく、そこに生かされていたんだなと今回の件で気づかされました」(前田氏)

自身が美術系大学出身で、現在、愛知県立芸術大学で非常勤講師も務める濱門慶太郎氏

2人目は、福岡市の制作会社でCEOを務める濱門慶太郎氏(46)。濱門氏は美術系大学を卒業後いくつかの職を経て、2年ほど前から今の職場で働いている。Webを中心とした制作物のプランニングや、コピーライティングを主に行っている。

カレーは週1~2回ペースで店を食べ歩く、いわゆる“食べ専”だったが、コロナ禍で在宅勤務が増えたことから、家でスパイスカレー作りを開始。すぐに週2~3回ペースで作るようになり、完成したカレーの写真を次々とSNSに投稿していった。すると、周囲との関係性に明らかな変化が起きた。

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