原発事故賠償の天王山、「生業訴訟」判決の行方 仙台高裁で国の責任めぐり、初の判決が下る

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同じ富岡町でも、猪狩浩美さん(60)の自宅があった地区は空間放射線量が比較的低かったこともあり、すでに避難指示は解除されている。だが、猪狩さんも元の生活を取り戻すどころか、生活再建の糸口すらつかめずにいる。

福島県楢葉町にあった自動車整備のための作業場は、原発事故直後の避難指示をきっかけに閉鎖を余儀なくされた。2015年9月、楢葉町の避難指示は解除されたものの、得意客のほとんどを失った猪狩さんは作業場の再開を断念せざるをえなかった。

現在、富岡町にあった実家の跡地に倉庫を建ててタイヤなどを保管しているが、「お客さんはほとんど来ない。新たな場所で事業を再建したくても元手となる資金が足りず、手がかりもつかめない」(猪狩さん)。

原発事故の前に一緒だった妻や長男、二男、長女とも、親の介護などが理由で離れ離れになり、猪狩さんはいわき市の自宅で一人暮らしの生活を続けている。

原発事故で苦悩した農家

「生業訴訟」の原告は、福島県のほか、茨城県、栃木県、宮城県などさまざまな地域に及ぶ。

避難指示区域外であった福島市では、富岡町のように住民が避難を命じられることはなかったものの、住宅地や農地が放射性物質で汚染された。同市内の梨農家、阿部哲也さん(57)は原発事故をきっかけに、顧客離れや販売価格の下落に直面した。

「それまで懇意にしていたお客さんが買いに来なくなった。小中学校の栽培体験の受け入れを長年続けてきたが、原発事故をきっかけになくなってしまった」(阿部さん)

「そうした経験による喪失感は今も消えない」という阿部さんは、「私たち被害者の気持ちにどれだけ寄り添った判決を出してもらえるかに注目している」と語る。

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