石炭火力発電所の休廃止政策がどうにも甘い訳 電力改革の現状、送電線空き容量は改善の兆し

拡大
縮小

――石炭の電源構成比は現在32%ですが、2030年の長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)は26%としています。政府の新方針により、この比率は下がるのでしょうか。

山家:そこがわかりません。環境団体やシンクタンクが試算を示しました。環境団体の気候ネットワークは「26%程度で推移するとみられる」と発表しましたし、「22~23%」とみた専門家もいました。電源構成比率を圧縮できず、26%という可能性もあると思います。

――大々的に発表されたのに、「なあ~んだ」という感じがします。もちろん、経済産業省が具体的な方策の検討を進めるので、それ次第になりますが。

山家:アナウンス効果はあったと思います。これまでのやり方を変えるぞ、という。既存システムを尊重していたが、そうもできなくなって再生可能エネルギーに軸足を移します、とメッセージを出したのではないでしょうか。というのも、原子力は誰がみても難しいですよね。エネルギーミックスでは2030年電源構成中、20〜22%としていましたが、20%は切るとか、下手したら5〜6%かもしれないとか、さまざまな見通しがあります。2桁の実現はハードルが高い。温室効果ガスの排出削減は再生可能エネルギーに頼るしかないのです。

(メモ・2015年に政府が決めたエネルギーミックス)
2015年6月、政府は2030年度までの温室効果ガスの削減目標「2013年度比で26%減」を決め、翌7月、経済産業省はこれを裏打ちする2030年時点の「エネルギーミックス」(長期エネルギー需給見通し)を定めた。
2030年時点の電源構成(総発電電力量に占める割合)は以下のとおり。
天然ガス 27%程度
石炭 26%程度
再生可能エネルギー 22~24%程度
原子力 20〜22%程度
石油 3%程度
(メモ・非効率な石炭火力)
資源エネルギー庁の資料(2020年7月13日)によると、
非効率な石炭火力発電による発電電力量が石炭火力全体に占める割合は 43.6%
総発電電力量に占める割合は 14.9%

非効率な石炭火力の退出を阻む「容量市場」

――梶山経産相が7月に示した新方針では、非効率な石炭火力の退出を促す一方で、再生可能エネルギーの利用促進を図り、かつ電力の安定供給を確保すると説明しています。電力の安定供給確保のために「容量市場」を創設したというのですが、これは何ですか。

山家:電力制度改革が本格化したのは2011年3月11日原発事故以降ですが、日本における電力自由化は2000年代前半に始まっています。2005年には卸電力市場が創設されました。一般社団法人「日本卸電力取引所」が設立され、例えば地域新電力は取引所の会員になって足りない電気を買い、送配電網から補填してもらうことができます。電力会社は余剰電力を取引所に売り、送配電網に流します。

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